※ファリンのことが大好き
「必要な栄養が取れれば食事なんてしなくても何でもいいと思ってる」 初めて魔物を見た一般人のような顔をしたライオスは「ほ、本気で言っているのか?」と震えているような声で言う。大きく目を見開いた顔は全然ファリンに似ていない。 「そ、そういう感じだったの?ずっと遠慮してるから魔物でもなんでも黙って食べてるのかと思ってた…」 「こいつはそういうタイプじゃないだろ」 チルチャックの指に頷いて私は指を2本立てる。 「食べるって時間もかかるし、面倒くさいし…」 「美味しい飯をあまり食べてこなかったのか?」 「そんなことはないと思うけど…。美味しいご飯っていうのは栄養補給に価値を生み出そうと努力した結果だと思ってる」 なんとなく私に気遣っているようなセンシへの応えは周りには理解されなかったらしい。「えーと、つまり?」と首を傾けながらマルシルが匙を同じ角度に傾ける。 「つまり、美味しいは快楽の一つだから享受することはあるけど、別に美味しいものがあるからって食事をしたいと思うわけじゃない」 はっきり言えばライオスは生まれて初めて絶望を知ったみたいな顔をして私を見る。やっぱりファリンには全然似ていない。
それからセンシやライオスはやけに食事の時に私を気にかけるようになった。やれ味は好きな方か、もっと食べないのか。主に食事を作るセンシがそうしたくなるのはわからなくもないが、ライオスにそうされる謂れはない。大して似てもいないのにライオスを見ているとファリンのことを思い出してしまうのであまり構われたくはなかった。優しいファリン、柔らかいファリン、暖かいファリン。どこかへ行ってしまったファリン。ファリンを思うとますます食事からは味が薄まり、せっせと渡される食材に栄養素しか見えなくなっていく。 口にした食事の回数も数えたくなくなった頃に加入してきたイヅツミは私たちの会話を知らないからか食事の時に行われる献身をひどく不思議に思ったらしい。今日もまた私の皿に少し食材をより分けてくるライオスに人と異なる瞳を眇める。 「お前、なぜそいつにばかり構う」 「食べることに興味がないとか言うんだぞ。そんなの勿体ないだろ、生きることと食べることは繋がっている。美味しい飯を食べてもっと生きることの喜びを知ってもらいたいんだ」 せっせと私の皿に食べ物を増やすライオスに「ふぅん」と興味をなくしたらしいイヅツミが欠伸混じりに耳を揺らす。 「動物の求愛みたいだな」 ライオスが大きく咽せてチルチャックが「おい!」と声を上げた。なんだか楽しそうに私とライオスを見比べるマルセルの隣で「違う!」と叫ぶ頬が赤くなっているのを見てああ、この顔は少しファリンに似ているなとぼんやり思う。
2024/01/04 17:09 (その他)
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