いつも困ったような顔で笑う少女だった。カムクラが見るのは怒りもせず、陶酔もせず、何を言っても何をされてもされなくてもいつも眉を下げて笑う姿だった。薄暗がりの中でいつまで経っても点かない火に途方にくれている手から棒を奪い、カムクラは火種に付けた火を枯れた枝へ移した。陽の光とも電球の下とも違う独特の色をした薄明かりの中で眉を下げた顔が微笑む。 「きみは器用だねえ」 「これくらい簡単でしょう。…この程度で、ツマラナイ」 「……うん、きみにはそうなのかも」 たった二文字の二人称に薄曇りのような響きを感じる。揺らぐ火を見下ろす伏せた瞳をカムクラが眺め続けると、視線に気付いた少女は少し迷ってから褒め言葉を一つ付け足した。 「さすがだね」
木が爆ぜる音も消え、何かに怯えたように人の気配が希薄な闇の中でカムクラは目を開ける。星明かりさえ眩しく感じるような静けさの中でもカムクラの目にはそれが見えた。 「何をしているんですか」 飛び跳ねるような勢いで驚愕した少女が、指先で揺れる毛先を押さえながら振り向く。 「お、起きてたの?」 半ばひっくり返った声が問いかけてくるのを聞き流したカムクラの指がそれを指差す。 「髪型が違う」 「…よく気がついたね」 眉尻を下げた笑顔がカムクラから目を逸らした。 「日向くんがね、前にこれくれたの。似合うと思うってそう言ってくれたんだよ。私に、似合うよって…そう…」 「面白みもない世辞ですね、ツマラナイ」 「つまらなくない」 言葉尻を覆うような言葉を作るのはカムクラが初めて耳にする声だった。 「つまらなくない、ぜんぜん、全然つまらなくないよ」 細い指先が髪飾りをしっかりと掴む。何があっても離したくないと言うかのように。 「日向くん、そう言うときすごく恥ずかしそうだった。でも、それでも褒めてくれたんだよ、すごくすごくうれしかったんだよ、私。日向くんは照れてても私のこと、ひなたくんはわたしのこと…」 見開いた瞳にみるみるうちに浮かぶ涙が星を映して輝き出す。一度噛み締められて鮮やかな色になった唇が一際高い声をあげた。 「そんな言い方しないで!日向くんの言葉は、ぜったいにつまらなくなんてない!」 つまらなくない、つまらなくなんてない、つまらないことない。涙を必死に拭いながら壊れた玩具のように必死に呟く少女をカムクラはしばらく見つめた。それからその言葉がしばらくは止まらないことに気がつくと視線を外して捨てるように呟いた。 「……本当につまらない」
2023/11/29 20:23 (ロンパ)
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