?(相手は出てこなかった)
(しかも遅刻した)
(謝るから許して)
(この場合表記ってどうしたらいい?)
毎年この季節になると思い出すことがある。
「ジューンブライド?」
「え。なに、お前そーゆーのに興味あったの?」
「別に興味あるわけじゃないけど、全くないわけでもない」
当時高校生だった私は、別にイケメンがいいとか思ってなかった。そこそこ稼ぎがあって浮気しなくて、メンタルちゃんとしてればいいかなってくらい。ただ、白無垢よりはドレスがいいかな、なんて考えてた。
「彼氏もいないくせになに言ってんだよ」
「しばく」
「そんなんだから彼氏できないんだろ?」
「うるさい矢巾ハゲろ」
「洒落にならないからやめろ!」
そう。ただ考えてただけ。何も考えず、画面の向こう側を眺めてるのと同じ。
だから、まさかこんなことになるとは思ってなかった。
「ちょっと!なんであんたが来るのよ!」
「別にいいだろ?呼ばれて来てるんだし」
「普通新婦に男は会いに来ない」
「え?マジで?」
「いや知らないけど」
「お前ホントそう言うとこあるよな!」
あの時ぼんやりと考えていた純白のドレス。まさか本当に着ることになるとは思ってなかった。
「柏手さ、高校の時結婚するなら年上がいいとか言ってなかったっけ?」
「収入が安定してそうだったからねー」
「実際は?」
「年上でも全く稼げない奴もいる」
「辛辣っ」
「まぁ、やっぱり人間性が何より大事だよね」
私は私の為に、今日のまでにいろいろやった。それがどの程度効果を出したのかわからないけど、やらないより良かったと思う。
「それに関しては間違いないな」
「矢巾よりもよっぽどね」
「なぁ、その一言必要だった?」
「今後気をつけるわ」
「そうしてくれ」
矢巾もそうだけど、結婚相手とは付き合って短いわけじゃない。関係性が発展してからも、恥ずかしげもなく名前を呼べるくらいには付き合いがある。だから、今更なにか大きく変わる事はない。
だけど実際苗字が変わるとなると、不思議な感覚になる。
「あ。そーいえばこれから柏手のことなんて呼べばいいんだ?」
「今まで通りでいいんじゃない?」
「でも苗字かわるだろ?それなのに柏手って呼ぶのも違くね?」
「名前で呼ぶ?」
「それは遠慮しまーす」
「やな感じぃ」
「俺だって渡を怒らせたくねぇんだよ」
名前くらいで怒るのか?と思ったけど、彼氏の名前を呼ばれたくないって人がかつていた。それを考えると、男子もそう思ってたってなにもおかしくない。
そんなタイプではないと思うけど、まぁ嫌な意外性じゃないからそうであっても構わないか。
そんな事を考えながら話すことしばらく。
ドアがノックされると、控えめに時間が迫っていることが告げられた。
「じゃあ後でな」
「二次会来るでしょ?」
「そりゃあな」
「ならよかった」
「なんかあんの?」
「別にぃ」
「はぁ?…まぁいいわ。楽しみにしとく」
そう言い残して矢巾は控え室から出ていった。
まさかこの格好で初めて会うのが矢巾だなんて、いったい誰が想像したのか。こういう場合の異性ってのって結婚相手、もしくは父親が一番初めに会うんじゃないの?知らないけど。ドラマとかそんなイメージ。
「新婦様、お時間です」
「はい」
二次会会場に着くまでの間に、ここに矢巾が来た事は話そう。親治がどんな反応をするかはわかんないけど、もしかしたら私の知らない親治が見られるかもしれない。
(二次会会場では及川さんが「俺も見たかったけど渡っちに気を使って行かなかったのに!」って騒いでて笑った)
(しかもお約束通り殴られてた)
(こんな時まであの人達はあの頃のままだった)