鬼滅
(都合的に那田蜘蛛山の後)
(勢いでしかない)
「あとは、この名札をつけてください!」
「え、名札?」
確かに入院着に名前を書くわけにいかないけど、この名札は全体士分あるんだろうか?
「はい!この名札があると、治療が早く進められるんです!」
そういうものなのか。治療に不要なことはしないと思うし、ここは蝶屋敷だ。言われた通りにしておこう。
「失礼します」
「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」
「騒いでもお薬は飲んでくださいね」
「くっっっそ不味いのに!!魘されるくらい不味いのにぃぃぃぃぃいいいやぁぁぁあああああごぶっ!!」
「貴方もお薬飲んでください」
「ゴメンネ…」
「治ってから受け取ります」
アオイさんにいつも怒られてる善逸にも、猪の被り物にも驚かれる伊之助にも全く怯まず薬を飲ませるのが凄い。
だけど、一つだけ不思議なことがある。
「えっと…竈門さんですね」
「はい」
俺だけ名前を確認してから診察されるんだ。
いや!確認そのものになにか思うところがあるんじゃなくて、善逸と伊之助は全く確認しないことが気になるというか…
「経過も良好ですね」
すみちゃん達は話しながら診てくれるし、アオイさんも確認のために名前を呼ぶ感じじゃない。
「いつもありがとうございます」
「いえ、これが仕事なので」
この人の匂いは常に一定で、患者に対して感情の揺らぎがほとんどない。
それと同じくらいちょっとした話もあまりしない人だけど、これは聞いてもいいことなんだろうか…
「なにか違和感がありましたらお呼びください」
「はい…あ、あの!」
「なんですか?」
「あの、どうして俺だけ名前を確認するんですか?」
「炭治郎それ聞く!?」
え、聞いたらまずかったかな。
「処方前の確認は必要なので」
「そうですよねぇ!当たり前ですよねぇ〜!」
思ったより普通の回答だ。
善逸が言うように、たしかに当たり前の確認なんだけど…
「じゃあ、どうして善逸と伊之助は確認しないんですか?」
「見てわかるので」
見てわかる?それは見た目でって事だろうか?
それならすみちゃん達が雑談混じりに診察するのも分かるけど、この人のはもっと根本的な…
「竈門さんは見て分からないので」
「…え?」
言葉の意味がわからなくて首を傾げていると、指さされた名札。
「それは、個人の判別ができない私のためにつけていただいています」
「個人の判別…」
「私は、人間の顔が見分けられません」
「え」
それは…いや、そんな嘘をつく必要なんてないし、なによりそんな匂いでもない。
「はいはい!なんで俺と伊之助は分かるんですか!」
「猪と…現在の症状から」
それを聞いてまた泣いた善逸だけど、なるほど。顔以外の判断材料があったからか。
たしかに俺は善逸みたいに手足が縮んでないし、伊之助は常に被り物が傍にある。いつも背負ってる禰豆子の箱もないから…
「あ、鬼は見分けられるんですか?」
「見たことがないので」
「そうですか…じゃあ!俺が退院するまでに妹に会ってください!そうしたらわかります」
「そうですね」
どこか諦めたような匂いを感じたけど、難しいだろうか。怖がってる様子ではないんだけど…
「次がありますので、また回診の時に」
「あ、すみません。引き止めてしまって」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございます」
部屋を出ていく白い背中を見ながら、また首を傾げる。
なんでお礼を言われたんだろう?引き止めて仕事の邪魔をしただけのような気がするんだけど。
「炭治郎〜、お前ほんっとヒヤヒヤさせるなのよなぁ〜」
寝台に仰向けに倒れながらそう言った善逸も「俺も気になってはいたけどさぁ」なんてこぼしていた。
「やっぱり聞いたら悪かったかな?」
「うーん、機嫌が悪くなるような音じゃなかったから大丈夫だと思う」
「善逸は何が気になってたんだ?」
「ほとんどの人は顔を見て話すだろ?あの人だけは絶対に視線が首から下だったんだ」
(力尽きた)
(この子ら大変!)