東堂:大好きはゴミ箱へ
side 宮水麗華

「それでまたお前は変な男に」

お酒を飲めるようになって初めての尽八くんとのデート、じゃなかった、夜ご飯。

東堂庵に就職してから何度かこうしてご飯を食べに行くようになった。中学生の頃明らかに一度離れた距離は、幼馴染として、友人として、少し元に戻った気がして、ホッとしていた。

「いい加減もう少しまともな奴と付き合え」

もうそんな言葉を言われるの、何回めだろうか。

「中学の頃はそんな奴じゃなかったのに、ったく、俺がいない間に何があったんだ」

この言葉ももうお決まり。いつも尽八くんは二言目には「いつからそんな奴になった」とか「昔はそんなことなかったのに」とか。

何にも知らないくせに。

私がこんなくだらない恋愛ばかりを繰り返すようになったのには、ちゃんときっかけがある。遡るは中学3年の秋、文化祭が終わって、後片付けをしている時のことだった。

***

「東堂、宮水と幼馴染なんだろ?」
「ああ」
「もう王道だよな、幼馴染同士の恋!どうなんだよ」
「なっ、宮水は妹みたいなもんだ」
「妹ぉ?」
「とにかく、そういう対象じゃない!俺はもっとこう大人なだな…」

本当にたまたまだった。たまたま、後片付けで出たゴミが袋にいっぱいになったから、集積所まで持っていこうと、そう思って歩いていたら、少し早く片付けが終わったらしい尽八くんのクラスから聞こえてきた私の名前に思わず立ち止まってしまって。

「そういう対象じゃない」
「もっと大人な」

その言葉に竦みそうになる足をどうにか動かして、無心でゴミを捨てに行ったのを覚えている。

いつも私のことを麗華と呼ぶ尽八くんが、宮水と話して、私のことを恋愛対象外だとそこにいる男の子たちに言い放った。

幼い頃から彼に抱いていた恋心はあっけなく散ったのだ。しかも思いを告げることもできないまま。

それからの私はとにかく尽八くん以外の人を好きになろうと必死で。もう子供じゃない、化粧もするようにして、たくさん恋愛をして、尽八くんなんかそこに置いてってやる。少しでも良いなと思えば好きだと思い込めるに自分に言い聞かせたし、基本的に告白されたら断らずにお付き合いをした。

それでもどうしても心のどこかで捨てきれなかった尽八くんへの想いを胸に、高校3年の夏、彼の走るインターハイを密かに見に行ったけれど、尽八くんはやっぱり変わらず人気者で私とはもう違う世界で生きているようだった。それを見た私は、心にわずかに残っていた彼への恋心も捨てたのだ。

東堂庵に就職することになったのは、秋に久しぶりに会った尽八くんのお姉さんに働いてみないかと提案されたことがきっかけで。

こうなったら彼が恐らく東堂庵に次期当主として戻ってくるまでの4年のうちに寿退職してやると、未来の旦那さま探しと仕事にとことん熱心に取り組むことを心に決めて東堂庵の門をくぐった。

***

「聞いているのか、麗華」
「え?あ、ごめん」
「いい加減もう少し落ち着けと言ってるんだ」
「はーい」
「だいたい帰ってきたら毎度違う男の愚痴を聞かされる俺の身にもなれ」
「すみませんね、そういえば尽八くんはそういう話ないんだね」
「…俺の話はいいだろ」
「なんだっけ?大人な女性が好みなんだっけ」

彼の口から直接聞いて、幼かった私の恋心にトドメの一撃を刺してしまえ。

「大人?」
「え?そうでしょ?」
「…別にそんなことない」
「えー?中学の時そう話してるの聞いたよ」
「は?」
「いや、文化祭の後に教室で話してたの聞こえて…」
「すまんが全く覚えていない」
「…そっか」
「大体俺の好みと違いすぎるな」

覚えてないって。私にとっては人生最大の失恋だったというのに。

「俺はどうも放っておけないやつが好きなようだ」
「へー」
「しっかりした女性を好きになれればいいんだがな」
「私みたいな?」
「…麗華、自分がしっかりしてると本当にそう思ってるのか?」
「これでも仕事きちんとしてると思うけどなあ」
「仕事の話ではない、普段の話だ」
「しっかり者の麗華ちゃんで有名」
「聞いたこともないな」
「酷いなぁ……」

呆れたように私を見る目の前の尽八くんは私の大好きな優しい顔をして笑っていた。

「また変な男に捕まったら話を聞いてやるから、どうせ俺くらいだろう?お前のそんな話に付き合ってやれる男は」

あまりにも優しいその瞳に、昔捨てたはずの彼への恋心が、ボッと現れそうで、慌てて目の前のお酒を喉に流し込んだ。

***


『最近はどうだ?ちゃんとやってるか?』
『彼氏できたの、今度こそちゃんとしてる人』

今まで付き合ったことのある人の中で一番優しくて一番誠実そうな新しい彼氏の報告を尽八くんにしたのは、顔を出した恋心をお酒で胃の底に流し込んだ、その数ヶ月後の話。
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