福富:愛してるの浪費活動
side 葉山実菜

「寿一くん、好きだよ」
「ああ」
「寿一くんは?」
「俺もだ」

伝えても響いているのかわからない。
そんな毎日をもう1年以上過ごしている。

高校3年生の秋、インターハイが終わった寿一くんにようやく想いを伝えられた。彼女にして欲しいと、震える声を必死に抑えながら告げると彼はしっかりと頷いた。

まさか実ると思っていなかった。3年間、クラス替え発表で毎回同じクラスのところに名前があった彼。好きになったのは確か2年生。私がお腹が痛くて自分の席でうずくまっていたところに気がついてくれた寿一くんが保健室まで連れて行ってくれた時。私を支えてくれた大きなその手にドキドキした。

少しずつ縮めた距離、目が合う回数も増えて。ようやく彼が部活を引退して残すは卒業を待つだけになったという時に伝えた思いは、彼によって受け入れられた筈だった。


「寿一くん、私のこと好き?」
「ああ」

私からの想いが80で彼からの想いが20だと思っていたのは高校生の頃で、そんな中始まった東京と京都の遠距離恋愛は本当に不安で、志望校をやっぱり京都にある大学から都内の大学に変えようと思ったのは数え切れないほどだ。

「大丈夫だ」

不安だ、東京の大学に変えたい、そう私が帰り道にこぼした時に彼が言ったその言葉を信じて私は京都の大学へと進んだのに。

***

結局大学に進んで1年。会えたのは3回。全部私が帰省した時。最後に帰省してからもうすでに4ヶ月は会っていない。

これじゃ8:2どころじゃない。まさに10:0で私の想いしかそこには存在していないかのような錯覚にさえ陥ってしまう。

寿一くんは大学に進んでも自転車をやっていて、だから私に会いにくる余裕なんてない、そんなのは頭ではわかっていたって、心は納得しない。

電話で「好きだよ」と伝えたって、俺もだとしか言わないし、私が電話をしない日は彼からかかってくることもなく、「おやすみ」というたった4文字のLIMEのメッセージが来るだけだ。

それでも大丈夫、彼は誠実で浮気とかは絶対しないし、きっと私のことを大事に思ってくれている。大学生になってキスもした、ドキドキしながらキス以上のこともした。何より彼は大丈夫だと言ったじゃないか。そう自分を鼓舞しながら彼への連絡を続けていたけれど、両思いなのに片想いが永遠と続いているような感覚はずっと抜けないままだった。

「悪い、来週の日曜だがレースの補助を頼まれてしまって会えなくなった」

なんでも、レースの補助員で行くはずだった人が怪我をしてその代わりに来て欲しいと先輩に頼まれたとかなんだとか、もう私にはそんなのどうでもよかった。全部ただの言い訳にしか聞こえないのだ。

「…なんで、4ヶ月ぶりだよ?もう2ヶ月も前から私、会おうって言ってたじゃない」
「すまない」
「どうしても行かなきゃいけないの?先約は私でしょ」
「申し訳ない」

ごめん、すまない、悪い、申し訳ない、結局全部同じ意味の言葉しか発さない。

「もういいよ、わかった」

一方的に彼への冷たい声を吐き出した後、電話を切った。

玄関に大切に置いておいた東京への切符を破り捨てようかと思ったけれど、紙に手をおけば涙ばかりが溢れてきて、破る力さえも湧き出てこなかった。

***

その次の週の日曜日、結局私は東京行きのチケットを払い戻して、そのお金で京都駅で洋服を買いあさった。

家に帰って買ったものを広げれば、こんな可愛い服買ったって彼に見せられるわけじゃないのになんてそんな卑屈な思いが身体中を支配した。

彼から電話がかかってきたのはその時だ。

私の携帯が彼からの着信を表示するのは1年半ほど付き合っても片手で数えるほどしかない。

「もしもし」
「…葉山か」
「そうだけど」
「今日は本当にすまなかった」

また、謝罪を聞かされるのか。

「こっちには来てるのか?」
「…寿一くんに会えないなら行く意味ないから」
「…そうか」
「浮いたお金で洋服買っちゃった」

無理矢理、電話口で笑って見せるけど、もう限界かもしれないと心がSOSを鳴らす。

こんなんなら、寿一くんに告白なんてしなければよかった。

「葉山、あの…」
「ごめん、寿一くん、もう別れよう」

彼が何を言いかけたのかはわからない。でもどうせ、きっと、ごめんか、悪いか、すまなかったか、申し訳ないか。

もういい。聞きたくない。こんなに辛い思い、もうしたくない。

そう思ったら頭で考えるよりも先に、別れようという言葉が出て来ていた。

私の言葉を聞いた彼からの反応を待つが、10秒、20秒、30秒と沈黙が続いていく。

結局彼が口を開いたのは、1分ほどしてから。

「…そうか」
「そうかって何?」
「いや…」
「…ありがとう、今まで」

震える声。でも告白の時のドキドキした震えじゃない。落ちそうな涙を必死でこらえる震えだ。

「ああ…」

結局最後まで、私ばっかりの一方通行な両思いだったのだと自分に言い聞かせながら電話を切って、私からのメッセージと私からの通話であふれたLIMEの連絡先を消した。

「バイバイ、寿一くん」

すごくすごく好きだった。好きだけど、気持ちが返ってこない両思いをするくらいなら、ずっと片思いをしていた方が良かった。

もう涙でその画面は滲んでいる。待ち受けにしていた卒業式の時に荒北くんに撮ってもらった彼との貴重な2ショットを、インターネットで探した真っ白な画像に変えて、スマホの電源を落とした。


それから、次の帰省で友人から新開くんと花咲さんが大学に入ってすぐ付き合い始めたらしいと聞いて、そういえばそんな世間話さえ寿一くんはしてくれなかったな、なんてとても悲しい気持ちになった。

そんなことに気がついてすぐに大学の友達に合コンのセッティングをお願いする連絡をして、無理矢理にでも前を向こうと決めた。
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