分かれ道




 シンが私の隣に腰掛けて、また心臓が高鳴る音を聞いた。
 浴衣のシンは普段よりも大人っぽくて、いつも思い返してしまう子どもの頃の可愛いシンが重ならなくて、どうしても意識してしまう。

 紛らわせようと林檎飴にかじりつくと昔から変わらない素朴な甘さが口内に広がっていった。

「……やっぱり、今日のおまえ、またおかしい気がする」

「そう、かな?」

「色々どんくさい癖、一人で抱え込もうとするのやめろよ。何の為の彼氏なんだよ」

 長めに息を吐く姿は完全に呆れ返っているのをわからせてくれる。

「まあ確かに、まだ全然頼りないかもしれないけど」

 自信無さげな声音を聞くとらしくなさがたまらなくなってその肩に寄り掛かる。
 こんなこといつもはなかなか出来ないから頑張ったつもり。自分でもいきなりの行動にびっくりだけど。だからシンも驚いたのかその肩が微かに揺れた。

「そんなことないよ。シンはいつだって、私のこと守ってくれる」

「はあ……おまえさ、なんでいつも、いきなりすげえ破壊力のあること言ったり、やったりすんの……」

 優しく、少しだけつらそうに息に溶けていく言葉を聞いた後、シンの手が私の頬を撫でて、顎に滑って持ち上げてくる。

「シン……?」

 いきなり至近距離で目が合って、恥ずかしさで逃げ出したくなって顎を引くと、それを許さないとでも言うようにシンの手に力が籠る。

「なあ……キスしていい?」

「え! う、えっと……」

 次に腰を引くと空かさず腕が回ってきて、逃げられないようにしっかりと腰を固定される。
 思わず林檎飴を落としそうになって手元を見て、またシンを見るとさっきよりも顔が近くて心臓が壊れそうに早鐘を打ち出す。

「……ダメ? オレ、付き合い始めて今までも結構抑えてんの、伝わってない?」

「それは……」

「まだ一度もキスしたことない。まだオレのこと、少しも男に見えない?」

 まだ、一度も? そう、だった? 何度もしてるような気がする……
 おかしいな。これ、本当に私の記憶? 混乱してるから、どうだったか……
 このシンは……


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 私の恋人じゃないと思う




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(3P目/お話内総P数17P)
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