秋祭りと初めてのキス
「何ボーッとしてるんだよ、バカ」
あ、正解だ、と思った時には私は浴衣姿のシンに手を引かれていた。
黒地の浴衣、凄くよく似合ってる。前もいつもと違う服装に意識しながら手を繋いで支えてもらったな……あれ、それって、いつの、何の話?
「シン、手、繋いでくれるの?」
「……おまえがさっきからすぐ人に飲まれて迷子になるから」
そう言ってシンは少し強引に私を引き寄せる。顔を背けられちゃったけど、耳が少し赤くなってて可愛い。
引き寄せられた反動で思ったよりも距離が詰まって、手だけじゃなくて腕が絡み合いそうな位置、シンの腕を意識して心臓が早くなる。
「この、お祭りって……」
意識を逸らす為に疑問を口にすると、シンは不思議そうな顔をして此方を見る。
自分が言ったことを頭の中で反芻してみると確かに、自分も浴衣を着てるのに今この疑問は明らかにおかしいよね。
「? 鬼神母神神社の秋祭りだろ……夏は楽しめなかったから、今度こそ祭り行きたいって言ってたの、おまえだろ」
「そ、そうだよね……変なこと聞いてごめんなさい」
「…………別にいいけど」
間があった。シン、不審に思ってる。まさかまた記憶が混乱してるなんて言えないし、本当に少しだけだから、勉強で忙しいシンに心配掛けたくない……
足がしんどくなってくる頃にはシンはタイミングを見計らったかのように近くのベンチに私を座らせて、ちょっと待ってろ、なんて口にしてから何処かへ行ってしまった。
足、やっぱりちょっと擦れかかってる。慣れない履き物だとすぐ疲れてしまう。
「足、今度は怪我してない?」
「え?」
戻ってきて早々、シンの一言はそれだった。
「おまえすぐ我慢するから。そろそろかと思って。置いて行って悪い」
「ううん、ちょっと疲れてきた頃だったの。ありがとう、シン、優しいね」
相変わらずぶっきらぼうだけど優しいな、そう思うと自然に笑顔になる。この人が好きって、身体の内側から溢れてくる。
「っ、これは、前科があるからだろ。痛い思いさせたくないし、我慢もさせたくないだけ」
照れてるのかな。顔が赤くなるシンが愛しくてその頬に手を伸ばしてしまいたくなる。触れたくなる。
「ほら、これ」
「あ! 林檎飴!」
「昔から祭りの時、毎回買ってるよな」
ふわりと微笑むシンを見ると嬉しくなる。林檎飴も嬉しいけど、覚えてて買ってきてくれたことが凄く嬉しい。
「嬉しい。ありがとう」
「……なんか、今日やたらと礼多い気がするんだけど」
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