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 カーテン越しにも眩しい光が、瞼を突き破って視神経を刺激する。目をぎゅっとつぶってもなお、痛いくらいに眩しいそれは、私を夢の世界から現実に引き戻すのには十分すぎるものだった。

「……ねむ」

 開ききらない目をこすりながら、隣にいる相棒をゆっくりと撫でると、目をぱっちりと開いた彼は、首を傾げた。

「おはよう、ヨルノズク」
「ホー!」

 まだ感覚が十分戻っていないけれど、残る眠気を吹き飛ばすために遮光カーテンを開けた。部屋いっぱいに光が差し込む。
 小さな庭の向こう側に見える、紅く色づいた木々が風に揺れていた。



「おはよ、マツバくん」

 朝ご飯を食べて外に出ると、エンジュジムの前でマツバくんと出会った。挨拶をして軽くお辞儀をすると、彼は一瞬怪訝な顔をしてから、すぐに笑顔に戻った。

「おはようじゃないよ、リゼちゃん。もうお昼も過ぎて……相変わらず凄い生活リズムだよね」
「あー……そうですね。こんにちは、でした」

 上を見上げると、太陽はとっくに真上を通り過ぎていた。ということは、さっき食べたのも、朝ご飯じゃなくて昼ご飯なのか。

「あんまり寝すぎるのも体に悪いんだからね?」

 心配そうな顔をして、そう言ってくれるマツバくんは、まるでお母さんのようだった。優しいなあ、マツバくん。
 気持ちをそのまま御礼として口にすれば、彼は柔らかく笑った。
 後ろにいたヨルノズクが、暇そうに一鳴きしたものだから、マツバくんに別れを告げて、エンジュシティのフレンドリィショップに歩いた。
 ポケモンフードと、自分の食べたいモノを適当に、あとは消耗品の買い込みをして、レジのお兄さんと一言二言会話を交わしてからフレンドリィショップを後にする。家までの帰り道、ヨルノズクが一つ、買い物袋を咥えてくれた。



「んー、やることはやったし……暇だね」

 大きく伸びをして、隣にいるヨルノズクに寄りかかる。さっきまで寝ていたせいか、眠気もないし、だからといって特にやることもない。さっき行ったフレンドリィショップで雑誌の一つや二つ、買っておくんだった。
 後悔こそするものの、また買いに行くのも面倒だ。テレビもこの時間帯に興味をそそられるものもない。それにヨルノズクはあまりテレビが好きではないらしい。目が良すぎるからかもしれない。

「あ、そうだ。散歩もかねてチョウジに遊びに行こうか。いかりまんじゅうも久しぶりに食べたいし」

 唐突に思いついたその考えは、ヨルノズクにとっても悪い提案ではなかったらしい。玄関へと跳ねて向かう後ろ姿を見て、そういえばこの子は私と一緒で、いかりまんじゅうが好きだったと思いだした。

 散歩もかねてという事で、そらをとぶのは最低限にしようと提案すると、ヨルノズクは同意の意味で、私の背の高さより少し上で飛行を始めた。
 ヨルノズクは体の大きさの割に、音も立てないように静かに羽ばたくから、舗装されたエンジュシティの街道は勿論、エンジュシティからチョウジタウン方向へ出たところにある、舗装されていない42ばんどうろも砂埃を舞わせるころはないだろう。
 まんじゅう楽しみだね、なんて言葉をヨルノズクに投げかけながら、私たちはゲートへと向かった。



 エンジュシティとチョウジタウンの間にあるスリバチ山は、その麓にある小さな湖を越えれば短絡できる。よく知った山ではあるけれど、この時間からスリバチ山に入って遭難でもしたら大変だ。なので、控えようと決めていたヨルノズクのそらをとぶ力を借りてしまった。

「湖を越えただけだし、許容範囲……だよね?」

 ヨルノズクが面倒臭そうにホーと鳴いたのをみて、内心2個くらい買ってあげようと思っていたいかりまんじゅうの数を1個にすることにした。



「いつもありがとうね」
「いえいえ、こちらこそ。サービスまでしてもらって……ありがとうございます」

 ホクホク顔でお土産屋さんを出た私とヨルノズクの前に、紫色のお兄さんと赤い髪のお姉さんが現れた。現れた、というよりは、お土産屋さんに入ろうとして、私達と出くわしたと言った方が正しいかもしれない。

「あ、すみません」
「いえいえ……あらぁ?」

 横に一歩よけると、微笑みを浮かべたお姉さんは、私の横に居るヨルノズクに視線を移して目を丸くした。

「その子、色違い?」
「えっ?」

 言われて数秒遅れて、やっと自分のヨルノズクが色違いだという事を思い出した。普段一緒にいるからこそ、その色が私の中で自然になっていたのだ。

「、あー……そうなんです。」
「え? ヨルノズクってこういう色じゃなかったっけ?」

 隣りにいる紫色のお兄さん……おじさま?は、首を傾げていた。確かにピカチュウやピッピのようなメジャーなポケモンではないけれど、色違いだという事を半分忘れていた私が言うのもおかしいが、少しだけ悲しかった。

「バカねー、ちゃんと図鑑見てなさいよ。ヨルノズクはね、通常の体は薄い茶色、羽が茶色なのよ」
「へえー……こいつは黄色だな」
「黄色!? どう見てもゴールドよ! ね! ……えーと、貴女の名前、は」
「あ、リゼです」
「ありがと。リゼもこの子の体は金色に見えるでしょう?」
「えーと、……確かに私のこの子の体は金色だと思っています。でも、あの、初めてこの子にあった時は黄色だと思っていましたから。」

 ヨルノズクの眉毛をよしよしと撫でると、ヨルノズクは目を細めた。ここを触られるのが好きらしい。

「でもどうして色違いって発生するんだろうな」

 おじさまがそう言ったのを、うんうんと頷くお姉さん。

「あたくしも、一時期色違いのポケモンについて興味があったのよね」
「ほ、本当ですか!? あっ……すみません」
「いいのよお、リゼは色違いのポケモンに興味があるのね」
「はい、この子が色違いというのもあって……アルビノのようなものだとも思ったんですけ、ポケモンによっては、色素が無いどころか、より強い色になったりして……いまいち、まだよく分かってはいないんですよね」

 二人とも、私の言葉に耳を傾けれくれたのをいいことに、思わず喋り過ぎてしまった。はっとして二人を見つめると、お姉さんはにっこりと微笑んでいて、おじさまはぽかんとした顔をしていた。

「あたくし、また少し色違いのポケモンに興味出てきたかもだわ。」
「おじょーちゃん、俺はよくわかんねーけど、このヨルノズクのこと好きなんだな……」
「ええ! ヨルノズクの、この朱い翼もとってもキュートですし」

 ヨルノズクが得意気な顔をするのも、トレーナーである私からしてみればとっても可愛い反応の一つだ。

「……あっ! そういえば、お姉さん達、お土産買いにきたんでしたよね?すみません、足止めしてしまって」
「……え、あ、そうね。コガネの仕事仲間にと思って、ね、そうよね、ラムダ!」
「お、おう」
「?? そうなんですか……コガネシティ……あーっ!ラジオとうのキャンペーン!忘れてた!」

 コガネシティにあるラジオとうは今、ポケギアの機能を拡張するラジオカードをクイズに答えるだけでプレゼントしてくれるというキャンペーンを実施していた。行こう行こうと思っていたものの、いつの間にか最終日となっていた。
 しかも、キャンペーン終了後からはアオイちゃんがDJを務める「アオイのあいことば」も始まるから、なんとしてもラジオカードは手に入れたい。たしか、ラジオとうに一般の人が入れるのは午後6時まで。今の時間をポケギアで確認すると、4時半過ぎだった。

「ごめんなさい、私、コガネに行く急用ができまして」
「うふふ、忙しい子ね。またお話ししましょう。わたくしの名前はアテナよ」
「はい!アテナさん、ぜひ! ラムダさんも、またお話ししましょう!失礼します!いこ、ヨルノズク!」

 ふわっと飛行を始めたヨルノズクと競争をするように、私はチョウジタウンの入り口の方へと走り始めた。そらをとぶは控えておこうと散々いっていたけど、歩いていたらコガネシティは間に合わないよなあ……。そう思いながらヨルノズクの方を見ると、まるで分かっていましたと言わんばかりの顔をして、彼は地面へ降り立ち、その朱い翼を広げた。



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15/07/12


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