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 ラジオとうの閉館時間間際に入ってきたのにもかかわらず、受付のお姉さんは笑顔でクイズを受けさせてくれた。

「ポケギアでタウンマップを見ることができる?」
「はい! いつもお世話になってますから」
「正解! ではポケモンのニドリーナは♀しかいない?」
「ええっと、ニドラン♀の進化系ですから、はい!」
「またまた正解! ボール職人のガンテツさんっていますよね、その人に渡すのはボンゴレですか?」
「……。いいえ、ぼんぐりです」
「正解せいかーい! ではコイキングというポケモンに、わざマシンは使えるでしょうか?」
「えっと、たしか使えなかったと思うので……いいえで」
「おっ大正解でーす! では、最後の問題になります! 人気番組『オーキドはかせのポケモンこうざ』 お相手は、ミルクちゃん?」
「……。」

 思い出……せない。記憶のどこかでオーキドはかせのポケモンこうざを聞いたことはあるが、その相手の名前はどうだったかな……。そういえば、その講座はヨルノズクと一緒に聞いたんだっけ。覚えていないかな?
 ヨルノズクに助けを求めるべく視線を向けると、ヨルノズクの頭が逆さになっていた。ああ、頭を使ってくれているのかな。もしかして、ヨルノズクもアオイちゃんのラジオ聞きたいのかな? 声も可愛いしね、アオイちゃん。
 ヨルノズクは、瞬きを一回して、頭の向きをを元に戻してから首を横に振った。

「い、いいえ!」
「……ピンポンピンポーン!大正解! では、こちらがラジオカードになります!」
「わあっ、ありがとうございます」

 さっそくポケギアにカードを挿入すると、音楽が流れ始めた。
やったー!聞けた聞けた! とヨルノズクに抱き付いてはしゃぐ私に、受付のお姉さんは、苦笑いを浮かべた。

「あー……この音楽は、閉館時間のアナウンスなんですよ。」

よく聞けばその音楽は、ポケギアからではなくって、すぐ傍にあったスピーカーからのものだった。



「ヨルノズクのおかげで大恥かいちゃった!」

 ラジオとうから出て、ヨルノズクと歩きながらそう言うと、ムッと不機嫌そうな顔をしたヨルノズクは、私の手元にあるポケギアをぐいぐいと引っ張った。

「あっ、だめだめ、カード抜いたらラジオ聞けなくなっちゃうよ! 嘘です。ごめんなさい。あなたのおかげでラジオカードが出に入りました、ヨルノズクさまー」
「……」
「夕ご飯はちょっとお高い方のポケモンフーズにしてあげるから! ね、ね?」

 眉毛の部分を撫でながらそう伝えてやっと、ヨルノズクは機嫌を直したらしい。直したというよりも、今日一番嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。



「そこの貴女」

 人が多いこともあって、エンジュシティやチョウジタウンと比べて賑やかなコガネシティの中で、凛と通る声に、思わず足を止めて振り返る。
 陽は地平線の向こうに消えかけて、夕焼けと夜空が交叉してグラデーションを成している。それを背景に、背の高い男の人が二人、立っていた。

「私ですか?」
「ええ、貴女です。」
「……なんでしょう?」

 にこやかな笑顔を浮かべているのは、ライトブルーの髪をした男の人。もう一人、隣にいる男の人は、ライトグリーンの髪をして、キャスケットを深くかぶっている。けれどその陰から見える目は鋭くて、ちょっと怖いと思ってしまった。

「いえ、そのヨルノズク……素晴らしい色をしていますね」

 青い男の人はそういって目を細めていた。今日はヨルノズクについて、よく触れられる日だ。トレーナーとして嬉しいことでもある。

「ああ、そうなんですよ。とっても綺麗でしょう!」

 隣に降り立ったヨルノズクの羽を撫でる。とても柔らかい羽根が、手に吸い付くようで癖になる。そのままヨルノズクの翼を撫で続けていると、キャスケットを被った男の人が、口を開いた。

「そのヨルノズク、譲っていただけませんか」
「……えっ?」
「勿論、タダでとは言いませんよ」

 そう言って一歩、こちらに歩み寄る男の人。思わず一歩後ずさりしてしまう。
 何を言っているのだろう。確かにポケモンの交換というものが存在しているのは私も知っている。けれど私のヨルノズクは小さいころから一緒の存在。手放すことなんて考えられない。

「いくら欲しいのですか?」

 眩暈がした。まさかポケモン同士の交換ではなく、金銭で。つまりヨルノズクを売ってくれという事か。冗談ではない、ポケモンはモノじゃない。
 固唾をのみこんで、私は彼らに頭を下げた。

「ごめんなさい、私、この子を手放すつもりはないんです。……では、失礼しますね」

 振り返って、エンジュシティの方向へと早歩きで向かう。もう夕暮れも姿を消して、薄暗い当たりが不気味に思える。
 ゲートを抜けるころには、街灯が煌々と目立つほどに暗くなっていた。



 もうすぐ自然公園へ続くゲートがあるが、その少し前で西に曲がると、エンジュシティまでの近道になる。もう日も暮れてお腹も空いたので、ショートカットをしようと、草むらの中を進む。
 ニドランたちに見つからないようにと、息をひそめる。

 こういう時に、静かに羽ばたけるヨルノズクで良かった。本当に見つかりたくなかったら、モンスターボールに入れて虫よけスプレーを使用するべきだとは思うけれど……。

「ダメですよ。こんな暗くなっているのに人通りの少ない道を歩いては」

 急に腕を掴まれ、後ろに引っ張られる。思わずよろけたけれど、なんとかバランスをとって後ろを振り返る。

「! あなたたち、は」
「ダメですと言われて、はいそうですかと引き下がるような我々ではないのです」
「は、離してください」

 相変わらず笑顔なままのライトブルーの男の人も、私の腕を掴んでいる目つきの悪い男の人も、結構細い体をしているのに、その体のどこにそんな力があるのかと不思議なくらいに、掴まれた腕は振りほどけそうにない。
 そしてどうやら、この二人は一般のポケモントレーナーとは違うらしい。ポケモンを扱う時点で一般の人とは少しズレているとは思っていたけれど、こんなところまで着いて来られているということは、穏やかに解決することも期待できなさそうだ。

「さあ、大人しくそのヨルノズクを――」
「……さいみんじゅつ」
「……は?」
「!! ランス、離れ――」

 ヨルノズクの紅い瞳を中心に、青い光が発せられると、ランスと呼ばれていた、私の腕を掴んでいた男の人が、ぱたりとその場に倒れこんだ。
 自由になった腕で、ヨルノズクの頭を撫でる。

「……驚いた。恐怖で動けなくなると思っていたのに」

 短髪の男の人は、相変わらず笑顔だった。というか、私はこの人と出会ってから笑顔しか見ていない。仲間が目の前で倒れたというのに。

「……その人が起きたら、さいみんじゅつかけた事、謝っておいてください。あと、これ以上着いてきたら、あ、あなたも同じ目に合わせますからね」

 さよなら! と叫んで、ヨルノズクにそらをとぶを命じた。エンジュシティまでそう遠くもないけれど、本当に着いて来られでもしたら困る。
 上空から、徐々に近づいてくる見慣れた街並みを見つめながら、ため息を一つ吐いた。



 エンジュシティの入り口から、家までの後ろを何回も何回も振り返りながら急ぎ足で歩く。街灯の影が人影に見えて、こんなに怖がってしまうのはあの人たちのせいだと、悲しくなる。

「リゼちゃん」
「ひっ!」

 真横から声をかけられて、情けない声を出してしまった。声の方には、困った顔をしたマツバくんが、ゲンガーを連れて立っている。

「マツバくん」
「リゼちゃんがビクビクしているのが遠くから見えてね、どうしたの?」
「それがね、」

 マツバくんと分かってどっと沸きあがる安心感に、足を止めて手短にコガネシティであったことを伝えると、彼は眉をひそめて、そっかと呟いた。

「皆が皆、ポケモンのことを考えてくれる人だったらいいんだけどね……最近はロケット団が復活してるって噂もあるからさ、気を付けてね」

 次からは僕も着いていこうか? なんて聞かれたけど、マツバくんはジムリーダーで忙しいのに、連れまわしたりなんかしたら申し訳ない。それにこんなイイ人の隣を歩いていたら、マツバくんのファンの女の人たちになんて思われるか……。
 何よりマツバくんとずっと一緒に行動するだなんて、私が恥ずかしくて、だめだ。

「ホー!」
「なあに、ヨルノズク? バタバタして……ああ、えっと、マツバくん。私にはこの子もいるし、大丈夫」
「本当に? 何かあったら僕を頼ってね。」
「うん」
「ああ、そうだ。僕が外に出ていたのはさ、リゼちゃんに用事があってね」
「私?」



 今日もマツバ君が作った晩ご飯のおすそ分けを頂いてしまった。お嫁さんになってくれたらいいのになあ、なんて冗談めいたことを思いながら、炊いた白ご飯と一緒に煮魚を口に入れる。おいしい。ヨルノズクも、ポケモンフードをつついている。約束通り少し高めのそれを食べる姿は可愛らしい。

 晩御飯の片づけを手早く済ませて、ヨルノズクにお風呂に行こうと伝えると、やんわりと嫌がるそぶりを見せた。あんまりお風呂が得意じゃないらしいけれど、今日は外でたくさん動いたから、ちゃんと洗わないとダメだよと言うと、観念したように短く一鳴きした。
 


 寝る前にパソコンで一仕事。ひと段落ついたところで時計を見ると、3時をゆうに越していた。時間を意識したからか、急激に眠気が襲ってくる。

「もうこんな、じかん」

 欠伸を噛み殺しながら、セルフ毛づくろいをしているヨルノズクに近寄ると、大きな目がこちらを見上げた。眉の部分をゆっくりと撫でる。

「そろそろ、寝ようと思うんだけど。今日はどうする? ボールに入る?」

 テーブルの上に置いていた、ツヤツヤのモンスターボールを持ってきて、ヨルノズクに問う。何も言わずにもぞもぞと布団へ入ろうとするヨルノズクに笑う。可愛いなあ、もう。
 ヨルノズクは夜行性だ。今寝なくたって平気だろうし、昼間は眠たいはずなのに、今日は悪いことをしてしまったかもしれない。

「治安が良くなったら、夜に散歩をしてみるのもいいかも」

 朱く柔らかい羽根が私の顔を優しく撫ぜた。気持ちのいい感触に、眠気の波が襲ってくる。これは、早く寝ろと言っているのだろうか。

「ありがとう、ヨルノズク。おやすみなさい」
「ホー」

 今日はなかなか大変な一日だったけれど、楽しくもあった。明日も、この子と楽しく過ごせたら良いな。そんなことを思いながら、私は微睡みの中にとぷんと落ちた。



散歩をしよう



15/07/17


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