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嘘でしょう?



何度も自分の目を疑った。目の前でランス様が、あんなに小さな子供に負ける姿を嘘だと思った。
嘘、あの誰よりも冷酷で、誰よりも一生懸命に仕事に打ち込むランス様が負けるわけがない。遠くから、ずっとそれを見ていたのに。

さっきもそうだった。

厚いガラスの向こうで見張りを続けるランス様は、反対側から見つめる私になんか気付かないぐらいに集中していた。
全ては今回の作戦が成功するために。



「ああ、ランス様……かっこいい……」

こっちに気付かないかな? ……なんて、無理か。声なんて届かない程厚いガラスなのに。

こっち、ちょっとは見てくれればいいのに。
後姿ばかり見てきた私には、彼と目が合ったことすらないのだけれど、きっとあの鋭い目で見られたらゾクゾクするんだろうなあ。



「あの。」
「何?私今ランス様観察でいそが……あんた誰?」

確か今は、ラジオ塔には人質以外の一般人はいないはず……なのに。目の前の子供は相棒と思われるポケモンを連れて臨戦態勢に入っている。なるほど、一般人かつ、敵なのか。

「ロケット団は、潰す」
「アンタ、前から噂になっているナマイキな子供?」
「それがどうした、バトルだ!」
「あーむりむり。私バトル好きじゃないのよね。行くなら行けば?」
「……そっか。」

手で追い払うジェスチャーをすると、ぽかんとした顔をした後、子供は後ろを向いて歩き出した。
その背中を見て、私はモンスターボールに手を掛ける。

(いけ―――)

「ね、正々堂々しようよオネーサン。」
「……あちゃ、ばれてた?」
「うん。」

私に向きなおした少年は、にやりと口角を上げる。目は笑っていなかった。まるで獲物を狩る獣みたいな、鋭い眼差し。あんたほんとに、こども?

「ほら、いくよアリゲイツ!!」
「……がんばってアーボ!」



なんとなく私が負けるのは分かっていた。だって本当にバトルは専門外だもの。

「じゃーね、他の人たちに やられといで!」
「ハン、心配しなくても、全員ぶったおすんで。」

どこまでも生意気な子供だ。ランス様にやられちゃえ。



彼が行ったあと、また私はランスさん観察に戻った。けれど、すぐにあの少年がランスさんの前に現れた。嘘でしょ、早すぎる。



そしてこの状況。なんで、意味わかんない。

グッ、と悔しそうな顔をするランスさんは、通り過ぎようとする少年から目をそらした。そのそらした視線の先には私がいるわけで、ランスさんは表情を一瞬だけ固めた。

「みてたんですか」

きっとそう言ったに違いない。かれの口パクに答えるようにこくんと頷く。

「……っ」

その場にへたりこんで、キャスケットで顔を隠して彼は泣き始めた。

それを私は、ただガラス越しに彼を見つめている事ぐらいしか出来なかった。本当はガラス越しじゃなくて、この向こうまで行って彼を慰めたいと思ったのに、体が動かない。
いや、動けないんじゃない、動いた後にどうすれば良いのかが分からないんだ。
ランスさんは私を知らなくて、私はランスさんを知っている。こんな一方通行な関係で、どうやって彼を慰めるというのか。



近くて遠い
この厚いガラスは、どうしても越えられない。



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