泣き疲れて、ぼうっとした目で宙を見るランス様。結局、私は終始厚いガラスの向こう側からそれを見ていただけ。最低だ。
突如、上の方で激しい音がした。微かに、ポケモンの鳴声も聞こえる。きっと、アポロ様とあの少年がバトルしているのだろう。
ランス様を倒すくらいの実力者だ。いくら現ロケット団で一番の実力者といえど、アポロ様だって倒せるだろう。そんな気がした。
「!」
ランスさま?
上に気をとられて、白い天井を見つめている隙に、ガラスの向こう側に居たランス様が忽然と姿を消した。何処だろうと周りを見回してみるものの、彼特有の綺麗なライトグリーンは目に入らない。
「逃げちゃった、のかな。」
負けたのだから、逃亡するのは当たり前の事だろう。もっとも、計画が上手く遂行できれば逃げる必要は無い。けれど。"サカキ様の呼び戻し"という、この計画は。多分。きっと、だけれども。失敗に終わるのだろう。
聡明なランス様の事だ。そのことに気付いたんだ。
(なら、私はどうする?)
リゼはぼんやりとこの後のことを考えた。元々、ランス様に惹かれて入ったこのロケット団。ランス様が抜けられたのなら、私にとって意味の無い場所だ。
……けれど、幹部の方々は勿論、したっぱの仲間との生活も楽しくなかったわけではない。
残って最後まで抗うか。それともさっさと尻尾を巻いて逃亡するか。リゼは、考えていた。
その時。
「リゼ!!」
聞きなれた声で、聞きなれない言葉が聞こえた。
ハッと後ろを振り向くと、そこには先ほど姿を消したライトグリーンが在った。
「ランス、様」
「何を呆けているのです!捕まりたいのですか!」
グイと腕を掴まれ、無理矢理立ち上がらされた。突然の事で頭が回らなくても、身体はランス様への思いに正直ならしく、引っ張られた腕がじんと熱くなった。
(わわ、私、ランス様に、う、腕を)
それだけではない、ランスは彼女のことをリゼと呼んだ。今まで、話したことさえ無かった高嶺の花の存在が、自分の名前を知っていて、そして今、目の前に居る。リゼに、一瞬の眩暈が襲った。
頭が混乱して、何が何やら分からない。とりあえずこれが夢ではないことは、痛いくらいに熱くなった手が物語っていた。
「とりあえず、ラジオ塔の外に出ます。良いですね?」
「えっ、あ、はい!!」
いつも見つめている後姿は、あんなに細くて、触ったら壊れてしまいそうなほどに見えたのに。ランス様の背中は、思っていたよりも大きかった。
「これから、どうするのです?」
塔の外に出たランス様が、私にそう問いかけた。彼の瞳に、私が映った。何とも間抜けな顔をしている。
「これから、と言いますと。」
「決まっているでしょう、我々には逃亡するか、捕まるかしか道はありません。」
行く当ては有るのですか。という質問に、私は黙って首を振った。帰る所なんて全て捨てた。ランス様の為に。ランス様に近づくために。
首を振った私に、彼は小さくため息を付いた。呆れられたのだろうか。心の中で不安に思うリゼに、ランスは僅かの笑みを見せた。
「ならば、一緒に逃げませんか?」
「え?」
「愛の逃避行ってヤツです。」
(あああ、愛の!?!!?)
口をパクパクさせるリゼの返事を聞かず、ランスは再び手を取って走り出した。
「リゼ」
「は、はい!」
「今回の任務で、貴女をあのポジションに配置させたのは私です。」
「えっ」
それってどういう……、
続けようとしたリゼに、ランスは無言で笑みを向けた。その眩しい笑顔に赤面したリゼは、その理由を聞くことを諦めて、ただ握られた手を離さないように、ひたすらに走った。
遠くて近い
貴女に私の勇姿を見せたかった。
こうなってしまうと、格好悪くて言えませんね。
10/09/06
突如、上の方で激しい音がした。微かに、ポケモンの鳴声も聞こえる。きっと、アポロ様とあの少年がバトルしているのだろう。
ランス様を倒すくらいの実力者だ。いくら現ロケット団で一番の実力者といえど、アポロ様だって倒せるだろう。そんな気がした。
「!」
ランスさま?
上に気をとられて、白い天井を見つめている隙に、ガラスの向こう側に居たランス様が忽然と姿を消した。何処だろうと周りを見回してみるものの、彼特有の綺麗なライトグリーンは目に入らない。
「逃げちゃった、のかな。」
負けたのだから、逃亡するのは当たり前の事だろう。もっとも、計画が上手く遂行できれば逃げる必要は無い。けれど。"サカキ様の呼び戻し"という、この計画は。多分。きっと、だけれども。失敗に終わるのだろう。
聡明なランス様の事だ。そのことに気付いたんだ。
(なら、私はどうする?)
リゼはぼんやりとこの後のことを考えた。元々、ランス様に惹かれて入ったこのロケット団。ランス様が抜けられたのなら、私にとって意味の無い場所だ。
……けれど、幹部の方々は勿論、したっぱの仲間との生活も楽しくなかったわけではない。
残って最後まで抗うか。それともさっさと尻尾を巻いて逃亡するか。リゼは、考えていた。
その時。
「リゼ!!」
聞きなれた声で、聞きなれない言葉が聞こえた。
ハッと後ろを振り向くと、そこには先ほど姿を消したライトグリーンが在った。
「ランス、様」
「何を呆けているのです!捕まりたいのですか!」
グイと腕を掴まれ、無理矢理立ち上がらされた。突然の事で頭が回らなくても、身体はランス様への思いに正直ならしく、引っ張られた腕がじんと熱くなった。
(わわ、私、ランス様に、う、腕を)
それだけではない、ランスは彼女のことをリゼと呼んだ。今まで、話したことさえ無かった高嶺の花の存在が、自分の名前を知っていて、そして今、目の前に居る。リゼに、一瞬の眩暈が襲った。
頭が混乱して、何が何やら分からない。とりあえずこれが夢ではないことは、痛いくらいに熱くなった手が物語っていた。
「とりあえず、ラジオ塔の外に出ます。良いですね?」
「えっ、あ、はい!!」
いつも見つめている後姿は、あんなに細くて、触ったら壊れてしまいそうなほどに見えたのに。ランス様の背中は、思っていたよりも大きかった。
「これから、どうするのです?」
塔の外に出たランス様が、私にそう問いかけた。彼の瞳に、私が映った。何とも間抜けな顔をしている。
「これから、と言いますと。」
「決まっているでしょう、我々には逃亡するか、捕まるかしか道はありません。」
行く当ては有るのですか。という質問に、私は黙って首を振った。帰る所なんて全て捨てた。ランス様の為に。ランス様に近づくために。
首を振った私に、彼は小さくため息を付いた。呆れられたのだろうか。心の中で不安に思うリゼに、ランスは僅かの笑みを見せた。
「ならば、一緒に逃げませんか?」
「え?」
「愛の逃避行ってヤツです。」
(あああ、愛の!?!!?)
口をパクパクさせるリゼの返事を聞かず、ランスは再び手を取って走り出した。
「リゼ」
「は、はい!」
「今回の任務で、貴女をあのポジションに配置させたのは私です。」
「えっ」
それってどういう……、
続けようとしたリゼに、ランスは無言で笑みを向けた。その眩しい笑顔に赤面したリゼは、その理由を聞くことを諦めて、ただ握られた手を離さないように、ひたすらに走った。
遠くて近い
貴女に私の勇姿を見せたかった。
こうなってしまうと、格好悪くて言えませんね。
10/09/06