さくら、さくら | ナノ





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第三部 5 夜伽


 願うもの、すべて叶わない疾風が私を求めるなら。
 私が疾風の願いなら、せめて――。


 疾風をその身に受け入れ、疾風の上でさくらは揺れる。ゆさりゆさりと上下に揺れる乳房を、下から伸ばされた手がその動きに合わせて揉みしだく。月灯りだけが射す昏い部屋に響くのは、ため息にも似た吐息、甘い呻き、そして、
「さくら…、さくら…っ」
「疾風……、はや…て…っ」
 互いを求めて呼び合う声。
 奪われたのではない。与えるためにさくらは疾風の上に乗り、深く深く疾風を受け入れているのだ。
「さくら…、ああ…、さくら…。もっと傍へ…」
 何度も血を吐き、身も心も傷ついた疾風が、それでもさくらと交わることを強く望んで求めたから、さくらは疾風を癒し身を与えるために上から疾風を受け入れた。
 繋がりは深くふたりを結びつける。だが、その分、肌と肌の触れ合いは遠い。疾風は肌で感じられる体温を求めてさくらの両腕をぐっと引き寄せる。
「あぁ…、ダメ……、そんなに深く……っ」
 交わる躰を引き寄せられて、中にいた疾風が最奥よりも深い場所を突いた。少しの痛みを感じたさくらは思わず身をよじる。
「ならば…、そのまま俺を抱きしめてくれ…。そなたの肌に触れたいのだ」
「………分かったわ」
 疾風を挿れたまま、さくらは躰を寝台に仰向けている疾風にゆっくりと傾けていった。疾風は下りてくるさくらを両手を広げて待ち望み、肌と肌が触れ合った瞬間、さくらの頭を自分に引き寄せてくちづけた。
「ん…っ」
 さくらの唇全体を甘噛みするように優しく。やがて深く。そして貪るように激しく。
「さくら…、さくら…」
 くちづけの合間に何度もさくらの名を呼んで。
「疾風…、疾風…、」
 くちづけを止めないまま、繋がった場所の疾風が突き上げてくる。さくらも合わせて自ら揺れる。
「疾風……、あぁ…、疾風――っ!」
「さくら…、さくら……!」
 奪うのではない。
 奪われるのでもない。
 これまで幾度も躰を交わらせてきた疾風とさくらは、初めて互いを求め与え合う中での絶頂を迎えた。

 さくらの中で迸った疾風の精は勢いよく子宮へと吸い込まれるが、そこに生命の源となる種は存在しない。さくらはその身で種のない精を呑みこみながら、これまで執拗な交わりを強いてきた疾風の本能的な願いを知ったような気がした。
 生あるものが己の存在を今世に主張し子孫を先世へと繋げたいと願うのは本能だ。
 疾風にはそのどちらも叶えられない。疾風に待つ運命は魂の消滅なのだから。

 毎夜のように一晩中に近いほど躰同士を繋げ、何度、疾風の精を注がれただろうか。
 なぜ、それほどまでに繋がること、さくらが疾風を求める言葉を望むだけではなく強いるのか、幾度抱かれても理解が出来ずに、ただただ、激しい愛撫に淫れるしかなかったが、そのすべての交わりに、疾風が快楽だけを求めていたとは思えない。
 悪魔のように酷いのに、砂のような脆さを持つ疾風に触れると胸が締め付けられたわけは、どれほど望んでも叶わない疾風の本能的な欲望を、さくらの深い場所に沈んでいた種が察していたからなのだろうか。

 絶頂の波が去り、脱力したさくらを疾風は強く抱きしめる。さくらもそんな疾風を抱きしめ返し、ふたりの距離はぐっと近くなる。
「さくら…」
 せつなく呼ばれる名になぜか涙が溢れて来て、疾風に対して限りなく優しくなりたいと、さくらは心から思うのだ。放たれた精はすべて子宮が呑み、残滓までも受け入れても決して着床することはない交わり。命を繋ぐことができない寂しさと空しさが、交わるたびに疾風を襲っていたのだろう。

「疾風……?」
 精を放っても疾風は繋がりを断とうとしなかった。
「まだ、そなたの中にいたい…」
 疾風は、今度はさくらを下にして首筋にくちづけた。
「俺の願いは…叶ったのだろうか…」
 疾風はさくらの耳を甘噛みしながら囁き、丸く円を描くように乳房を愛撫して、腰をゆっくりと揺らす。
「んあぁぁ…、あん…、あぁ…っ、疾風…、はやて………――っ」
「喘ぐその声が、心から俺を受け入れる音色になることなど…、決してないと思っていたのに」
「疾風っ」
 さくらの中の疾風がせりあがる感情とともに再び猛る。その質量感に満たされて、さくらは疾風の背中に回した腕に力を込めて自分を揺らす存在を抱きしめた。
 強く。優しく。
「あ…んぁ、あぁ…、はや…、はやてっ、あぁぁ…、んぁ…っ」
「は…っ、はぁっ、さく…らっ、さく……ら!」
 疾風が求める限り、さくらは受け入れる。揺らされて高みに連れて行かれて意識を飛ばしそうになっても、必死になって疾風にしがみつき、疾風の名を声にする。
「疾風―――っ」
「さくらっ」
「あぁ…、あん…、あぁ…ああ…っ、あぁぁ…っ!」
「さ、くら――――っ!」
 精がまた放たれる。さくらの子宮は種のない精でいっぱいになり、受け入れきれない分が零れてくる。

 ――零れないで…。全部、入って…。

 ほんの欠片でもいい。疾風の存在が、願いが、自分の中に遺ればいいのにと――心から願いながら、さくらの意識は深く沈んでいくのだった。








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