夫婦になった兄弟 | ナノ


▼ 47 新たな始まり

儀式は成功した。光の中心にいたのはーーさらさらな金髪で肌が白く、細身の青年だった。尻餅をついた状態で現れ、俺達が見ていることに気づき「ああッ」と大声でのけぞる。

え。なにこの人。
まさかこの外国人風の若者が、運命の存在なのか? 

「あの……ここどこだ? 皆さん、何やってるんですか」
「ほっほっほ。お主が島の救世主か。ワシは碧の民の長老じゃ。よくぞ来てくれた。さっそく名を教えてくれ」

後ろに手を組み話しかけるムゥ婆はまるで動じておらず、にこやかな表情をする。

「俺はジャンだ。救世主ってなんだ…? というか、病室にいたはずなんだけどーー。……あっ。……ああー!!」

急に叫び出した若者が俺達を見回し、驚愕に目を見張る。
だが明るい緑の瞳は、急速に浮き足立つように揺れていた。

「俺……死んだのか! そうに違いない。それでこの未知の世界に転生したんだよ、絶対そうだ! やったー!! 日本のアニメは本当だったんだ!!」

起き上がり飛び跳ね、噛み締めるようにガッツポーズをしている。

「はっ? ちょっと。ジャンさん、だっけか。日本のこと知ってるの? つうか日本語うまいな」
「え、君も知ってるの? もしかして同じように転生した仲間とか。君のほうこそフランス語うまいね」

彼は瞳を輝かせ、俺に近づいてきた。背は俺より少し高いぐらいで、今時の大学生に見える。
でもその台詞で瞬時に悟った。この人、俺達と同じ世界から来たんだ。

しかもフランス人らしい。
言語はどうやら俺達に起こっていることと同様、全て母国語に聞こえているのだろう。

「兄ちゃん、すごいことになっちゃったね。俺もっと小さい子供とか赤ん坊が現れるのかと思ったよ。まあ赤の他人で安心したけど」
「ああ。びっくりだぜ。……でもあんた、さっき死んだって言ってたよな? 大丈夫か」

あっそうだ。兄の言葉で大変なことを思い出し俺も気遣う。
しかし青年は笑ってあっけらかんとしていた。
実は不治の病でずっと入院生活だったらしく、とっくに諦めはついていたのだそうだ。

「もちろん愛する家族も残してきたし、とても悲しい事さ。でもこれはチャンスだろう? 俺は第二の人生を神から与えられたんだ!」

彼は体が身軽で健康になったと感じ、活力に満ち溢れていた。
長老が満足そうに説明を続ける。

「気に入ってもらえてよかったのう、ワシらも頑張ってきた甲斐がある。ジャン、お主の降臨は神によるものだというのはその通りじゃが、ここにいる兄弟の努力の賜物でもあるのじゃ。ユータとケイジはそれはもう毎晩ーー」
「うわあぁぁあやめてくださいよムゥ婆! 恥ずかしいでしょ、詳細いらないから!」

必死に止めるとムゥ婆は微笑んでいた。俺達のことをジャンさんが同郷の仲間だと思ってくれたのは嬉しいが、夫婦生活をしていたことが同年代にバレるのはきつい。

俺と兄は日本人であること、色々あったが兄を連れ帰るために俺が呼ばれ奮闘したことなどを教えた。

「へえ〜! なんだそのドラマチックな話は! 君達素晴らしい兄弟愛だな、しかも俺のことも召喚してくれて。最高だよ! それに……このマッチョなクールガイ達は俺の仲間になるのか?」

漫画やアニメが大好きだというジャンさんは興奮して各地区の統括者らに向き直った。
想像と違ったのか、最初は戸惑っていたラドさん達だが、皆優しい人達だ。
兄が一人ずつ皆を紹介した。

「こいつが俺の親友、ラドだ。正確には前の人格のほうが親しかったが。まあ詳しい話はあとで聞いてくれ。親身で明るい男だから、遠慮せず頼ると喜ぶぞ」
「ははっ。その通りだ。ジャン、なんだかお前には見た目だけじゃなく親近感がわくな。まだ若いし、俺が兄がわりになろう!」
「えっ、本当か? 嬉しいよ、ありがとうラド!」

彼らは最初からフレンドリーにハグを交わしていた。
そしてルエンさんも彼を歓迎して挨拶をする。

「ようこそ碧の島へ。ジャン、君はまだ若くうぶそうだから俺が色々教えてあげよう。困ったときはすぐにかけつけるよ」
「あっ、どうも。でも俺そんなうぶってわけじゃないんだけどな、もう21だし。まあいいか、よろしく!」

色男の危ない雰囲気を感じ取ったのか、はっきり返した青年だったが次々と打ち解けていて俺も安心をする。

しかし、最後に深々とお辞儀をした黒髪長身のエルハンさんは少しおかしかった。

「んで、こいつがエルハンだ。長老によればあんたの世話係として当面活躍するらしい。仲良くしてやってくれ」
「ぅわあ! 本当に? 俺こんなガタイのいい従者持ってるのか、嬉しすぎるぜ!」
「いやこの島の部族長だからな、こいつ。一応長老の次に偉い奴だから」

兄が注釈を入れると彼はかなり驚いていた。
エルハンさんはなぜか島の救世主をじっと見つめたまま、顔をどんどんぼうっと赤らめていた。

「いえ。長ですが貴方の従者のようなものです。どうぞ、私のことはお好きにお使いください、ジャン。貴方の誕生を心からお待ちしておりました」

丁寧に伝えひざまずいたエルハンさんに、青年は感激の面持ちで返事をする。
なんとなく俺は兄をじろりと見た。

「ねえ、なんかエルハンさん大丈夫かな? 顔すごい赤いけど。舞い上がってるのかな」
「……さあ。タイプなんじゃねえか。ああいう堅物は一旦こうとなったらまっしぐらだからな」

乾いた笑いをこぼす兄に俺も同調した。
ま、まあいいか。俺達もう行っちゃうし。

「あの、ムゥ婆。彼はとくに俺達みたいな過酷なノルマないですよね? あったらちょっと責任感じちゃうんで」
「うむ。ないぞ。安心してよい。あの者の降臨により、もう島の安寧は約束されたようなものなのじゃ。あとは島の者とともに幸せに暮らしてほしいと思っておるよ。……まあ、ワシの孫のほうは大層気に入ってしまったようじゃがな」

ふふ、と平和的に笑ってるけど長老的に大丈夫なのだろうか。

「ユータよ。一族は大丈夫じゃ。本家が途絶えても分家があり、我らの血筋は脈々と続く。孫達は自分の好きに生きるとよい。命あってこその人生だからの。……それにな、ワシの力はもう残っておらん、ただの婆じゃ。これからはラウリに頑張ってもらうぞ」

隣にいた少年に笑いかけ、彼もはっとなってみるみるうちに使命感を表す。

「長老……っ。はい、ぼくの持ちうる力の限り、頑張ります!」

頷くと祖母は安心し、いつの間にか背後に立っていた主ガイゼルに頭をぽしゃりとやられていた。
皆、仲良くまとまってよかったな。俺と兄ちゃんも、もう思い残すことはない。

「ではお前達、また集まってくれ。そろそろ異界への門が閉じる。ユータにケイジよ。島を救ってくれたこと、本当に二人には感謝しているぞ。どうか気をつけてな。皆で安全幸福を祈っているからの」
「…はい! ありがとう、ムゥ婆。ラウリ君もね」

俺は少年に向き直り、思わず彼のことを抱きしめた。

「元気でね、ラウリ君。君と友達になれてよかったよ。呪術頑張ってね」
「……奥方様! とっても寂しいですが、ぼくもお友達になれて嬉しかったです! どうかお幸せに!」
「ありがとう。もう奥方じゃないから優太でいいよ」

笑うと彼は感動して「は、はい。ユータ様!」と呼んでくれた。
皆も続々と集まり、兄はエルハンさんやラドさん、他の二人とも穏やかな雰囲気で別れを交わしていた。

「元気でな、お前ならどこでもやってけると思うが、奥方殿のことを大切にな、ケイジ」
「おう。それは絶対に約束できるな。お前らも頑張れよ。その青年のこと、守ってやれ。まあポジティブそうだから平気かもしれんが」

兄はラドさんと手を合わせ友達同士のハグをしていた。もうこんな姿は見られないのかと思うと寂しい気分だ。

「ケイジ。ご多幸をお祈りしています。貴方の力はどこへ行っても錆びないでしょう。ですが鍛練も忘れないでください。ケージャ様のためにも」
「はいはい。やっとくから心配すんな。元々身体鍛えんの好きだから俺」

飄々と言う兄だが島では相棒でもあったエルハンさんと堅い握手をした。
ケージャを含めると何回も挨拶してしまった気がするが、何度やっても寂しさが襲う。

皆、いい人達だった。
数奇な運命ではあったけど、今は来てよかったと思える。

「おし。じゃあ帰るか、優太。皆、またな!」
「えっ? あ、はい! 部族長……! 行ってらっしゃいませ!」

兄のラフな挨拶とともに俺はお辞儀をし、帰ろうとした。
この姿じゃあれなので、前もって俺の所持品だった普通の服に着替え、兄も甚平を着る。

しかしあることに気づく。
集団の端のほうを見ると、白衣姿の銀髪の先生と、大柄な助手が立っていた。
彼らは時おりジャンさんを見て何かを話し込んでいる。

「ちょっと先生、挨拶忘れてましたよ! 冷たいなぁ、こっち来てくださいよ、もう会えないんですよ!」
「ああ、そうだったか? すまない。すでに次の研究対象へと目移りしてしまっていた」

二人が近くに来てくれた為しっかり別れを伝えた。
考えてみたら、身近で一番お世話になったかもしれない。兄も彼らに礼を言う。

「そういや先生達は、これからどうするんだ? 島を出るのか?」
「いいや。長老との契約で、しばらくは運命の存在とやらを見守るつもりだ。このような神秘を目の当たりにしては、そう簡単には去れないからな。そうだろう、セフィ」
「はい。俺はジルツ先生の居る所ならどこでもご一緒します」

仲良さそうな診療所の面々はまだまだやることがあるようだ。

「ユータ、ケイジ。君達の恋が無事に発展することを祈っている。元気でな」
「……はぁっ!? ちょ、いきなりぶちこんできますね先生っ」

なぜか俺は大慌てで顔を熱くし、兄の手を引っ張る。
今はそういう話は放っておいてほしかった。でも兄は楽しそうに俺の肩を抱く。

「恋ってなんだよ。もう発展してるよな? 優太」
「えっ? ええと、兄ちゃん、もう行こうっ。閉まっちゃうよ」

顔が見れないままはぐらかす。
そう言われて本当はドキドキしたのに俺は逃げた。兄の思いもだが自分のもまだ自信が持てなかった。

「じゃあ行くぜ。優太。絶対に手離すなよ」
「うん!」

空間に青くうずまいている力の中心。
そこが俺達の世界へと繋がっている、異界の門だ。

外がどうなってるのか分からないし、不安もすごい。
でもジャンさんが無傷で現れたのだからきっと大丈夫と信じる。

「皆、バイバーイ!!」
「お前ら、来世でまた会おうぜ!!」

格好よく叫んだ兄と最後に振り返って足を踏み入れる。
笑顔や泣き顔、応援する顔などが映り、皆手を振ってくれていた。

ありがとう。碧の島。
島の皆。ケージャ。
ずっとずっと、忘れないよーー。



◇◇◇



俺達は、海に投げ出された。
そんな酷いことってあるか?と思ったけど、最初もそうだったなと波に沈みながら思い出す。

深い海の底から段々光が近づいてきて、ぼんやり瞳を開けた先には俺の手を掴み海面へ上がろうと泳ぐ兄がいた。

俺は助けられ、無事に陸へと着いたようだった。

「優太、起きろ! 目覚ませって、おい!」

頬をぺしぺしやられ、優しく身体を擦られる。気がつくと動転した兄の顔つきが目の前にあった。
まるで島に着いた時みたいに、兄が助けてくれたのだろう。

「兄ちゃん…? ここどこ? 着いた?」
「優太ぁ!!」

涙ながらに俺は起こされ、抱きしめられた。

「もう心配させんなよ、まさか海に放り投げられるとはな、参ったぜ……。ここは日本だ。ほら見てみろ、この海岸よく来ただろ?」

辺りは真っ暗で夜だったが、日本の砂浜と高い石壁の向こうに、電柱が並びコンビニも見える。
この場所は確かに何度も来た。兄が事故で行方がわからなくなり、何回も捜索が行われた所だからだ。

「わあ……てことは、ほんとに戻ってきたんだね、俺達。よかった……」
「優太。寒くないか? 一旦服脱げ」

兄は俺を手伝い、一緒にびしょ濡れの服をしぼって乾かそうとした。
夜空には星が多く、生温い風が吹く。気候はまだ夏だと感じた。

近くの車道にはまばらに車が走っている。
この海岸は隣の県内にあり、家から一時間ほどの場所だ。
どうやって帰ろう、やっぱり交番とかに行くしかないのかな、お金もないし。

そう話すと、兄にはなにか考えがあるらしかった。

「この近くに寺があってな、何度か行ったことがある。そこの人に助けてもらえるかもしれない。すぐに警察行くと騒ぎになりそうだからな」

慎重な兄の気持ちも分かった。今日はとにかく家族に無事を知らせ、家に帰ったほうがいい。
俺達は道路を渡って少し歩き、木々に囲まれた寺の敷地内へと入った。

途中、腕に光る碧の石の腕輪を見る。兄は何も言わないが、俺はこれだけはちゃんと持って帰ろうと思い、身につけていた。
もしかしたら全部夢だったのかと最初思ったものの、やっぱり島でのことは本当に起きた事なのだ。

「すみません、誰かいますか? ちょっと財布落としちゃって、電話貸してくれませんか!」

兄が大きな声で戸を叩くと、中から人が出てきた。
着物を着た中年のお坊さんだ。彼は驚いたようだがすぐに受け入れてくれ、俺達のまだ濡れた服や髪なども見て心配された。

「どうぞ、使ってください。こんな夜遅くに何があったのですか? ……ん? 君はもしや……」

タオルをくれて身体を拭いていると、住職さんが兄の顔をじろじろと見る。
なんと彼も兄の事故のことを知っており、警察の聞き込みや新聞などから心を痛めていたそうだ。
確かにこの辺では遺体が見つからない事故として結構騒がれたと思う。

俺達はお坊さんに嘘をつくのを躊躇ったが、本当のことを言ったところで信じられるはずもないと考え、二人とも記憶喪失で通した。

というか、俺の行方不明も問題になってたらしい。

「弟さんも二週間前にいなくなったと聞き、警察が再び捜索をしていました。ご両親は大層取り乱しておられたようで……ですが無事に帰られて何よりです」
「……えっ? 二週間前!?」

親の事も胸が痛みすぎたが、その期間の短さに驚愕する。

「兄ちゃん、どうなってるんだ。俺達二ヶ月間そこにいたよね?」
「ああ。正確には75日な。…でも俺がいた時間はぴったり三年なんだよな。あの門で時空が歪んだのか? 浦島太郎かよ」

こっそり話し、顎に手を当て考え込む兄。まあフィクション的にはよくあることなのか。とにかく短い分にはよかったかもしれない。
ひとまず兄は電話を借りて、家に連絡することにした。俺が話そうかとも思ったが、兄は自分でかけると決めた。

「ーーあ、もしもし? 俺だよ俺。啓司。ええと、久しぶり。……いや詐欺じゃないって。ほんとに俺なんだ。……うん、生きてるよ。夢じゃないから」

不穏な言葉から始まった電話に緊張しながら聞き耳を立てる。
お父さんもお母さんも、完全に気が動転したようだった。
芯が強い人達で、兄が消えた後も俺に対しては気丈に振る舞っていた二人だが、さぞやびっくりしたことだろう。倒れないといいけど。

とにかく兄の話を信じてくれた二人は、夜10時ぐらいで県外なのにも関わらず、すぐに車で来てくれると言った。
大慌てで向かっているらしく、ありがたい気持ちになる。

「兄ちゃん、どうだった? お母さんたち泣いてたでしょ」
「うーん、というか半信半疑な感じだったかもな。俺はほんの数ヵ月ぶりぐらいの認識だから、変な感覚だわ」

兄が肩をすくめて話す。でも事態の大きさは認識したようだった。
俺達は親切な住職さんにより、温かいシャワーまで貸してもらった。
両親が来るまでの一時間ほど、座敷でゆっくり休ませてもらう。

そしていよいよ、三年ぶりの再会の瞬間がやって来た。
玄関口から大きな声がかけられ、俺達はすぐに向かう。
扉を開けて立っていたのは、涙をこらえ唇をわななかせた父と母だった。

「啓司っ! 生きていたんだね、よかった……!」
「啓ちゃん、どこ行ってたのよ! お母さん達ずっとずっと寂しかったわよ…っ」

二人は一目散に兄の元に駆けていき、一緒に息子を抱きしめた。
兄は苦しそうにして戸惑いを浮かべ、「心配かけてごめんな」と謝っていたが、俺も涙をこぼす。

ずっと夢に描いていた光景が今叶えられた。
あの世界に行ったことを心から良かったと思う。

「優ちゃん……! お兄ちゃんと一緒だったの? あなたまでいなくなってもう絶望で大変だったんだからね!」
「う、うん。ごめんねお母さん、お父さん。でもあれだよ、もう大丈夫。兄ちゃんも帰ってきたし、ずっと皆一緒だからさ」

俺が二人をなだめると、父が大きな腕を広げ兄弟一緒に抱擁された。
力のこもった様子に愛情が分かる。
二人にかけてしまった心労は計り知れないが、俺達は暖かすぎるほどに迎えられた。

お寺の住職さんに皆でお礼を伝え、我が家に帰ることにした。
車で俺達が後部座席に座ると、二人とも頻繁に振り向き確認してきたが、気を遣ってか詳しい話を聞いてくることはなかった。

安堵からか俺は兄の肩に頭を預け、寝入ってしまった。
こっそり膝の上で手を繋げられていたことも安心した。

あっという間に時間が経ち、大きな一軒家に到着する。
住宅街というより、緑豊かな小高い丘に建てられたモダンな住居だ。

俺はまだ高校が夏休みのはずだが、今日は平日らしく明日も両親とも仕事だ。
しかし一旦、吹き抜けでガラス張りのリビングに皆が集まった。ソファに座り、話をする。

母は俺の隣に座り、体が元気かどうか心配そうにしていた。
ブラウンの長めの髪を結わえ、背が高くスタイルのいい人だ。対して向かいの椅子に座った父は眼鏡をかけていて、背はすごく高いが顔は俺に似た感じで柔和である。

そんな二人が前のめりになって、真剣な顔を向けてくる。
聞きたいことは分かっていた。兄の出方が気になったが、俺も同調しようと考えていた。

「啓司に優太。僕達は本当に君達が帰ってきてくれて嬉しい。とくに三人とも、この三年間は悲しみに包まれていたんだ。前向きに生きようとはしたけど、どこかで生きてるんじゃないかって、願ってたよ」
「……ああ。ごめんな、親父。えっとな、何て言ったらいいのか……こんな話、到底信じられないとは思うけど、聞いてくれ。俺、別の世界にいたんだ。優太と一緒に」
「えっ?」

考古学者の父の素っ頓狂な声が響く。
俺も驚愕した。まさか兄が正直に話すとは。

「ど、どういうことだ? 別の世界って。僕にも分かるように説明してくれ」
「いや、だからーー」

兄は内容をかいつまんで話した。もちろん夫婦だったことは伏せているが、要は兄が部族長となり活躍し、後から俺が召喚され二人で問題を解決した後、無事に儀式で帰れたと教えた。

父と母は顔を見合わせ、困惑を浮かべている。無理もない。

「兄ちゃんの話、本当なんだよ。いわば俺が兄ちゃんを助けに行ったんだ。まあ実際はたくさん助けられたけど。とにかく、俺が迎えに行ったみたいな感じで、まさに運命的なんだよ。長老とか島の仲間にもお世話になってーー」

興奮してまくし立てると、母にそっと肩を抱かれる。
あっ、やっぱ全然信じてない。それどころか頭がおかしくなったと思われたかも。

「お母さん、事実なんだ。でも俺達別におかしくないから。普通だからね。体もピンピンしてるし、心配しないで」
「うん。分かったわ。私達はね、二人が帰ってきたことだけでも嬉しいの。ほんと、優太がお兄ちゃん連れ帰ってきてくれたと思う。ありがとうね、優太。頑張ったね」

頭をぽんぽんと触られ俺は涙ぐんだ。
もう高一なのに親の温もりに安心する。兄ちゃんと危ない関係になったことなんて、絶対に言えない。

兄はもう少し詳しい話を父とした。考古学の発掘調査会社に勤めている父はかなり興味を引かれたらしい。俺達の話を二人とも無下に扱わず、聞いてくれたことは嬉しかった。

その後、もう夜も遅いということで、家族団らんの続きは明日になった。
とりあえず自室に戻り、休むことにする。

この家は三階建てで、俺と兄の部屋は二階の角部屋と向かいの庭に面した部屋だ。

「優太。寝れるか? 島では早朝だっただろ。俺まだ目が冴えてるわ」
「そうだね。俺も車で寝っちゃったからあんまり眠くないや。興奮もしてるし」

部屋に入る間際、廊下で立って向かい合う。
すでに部屋着になった兄をまじまじ見ると懐かしさが襲う。
俺は兄に自然と抱きついた。なぜか兄の体が一瞬緊張したのを感じた。

「優太……っ?」
「えっ、あ、ごめん。いつもの癖で。……あっ、じゃあおやすみ兄ちゃん」

俺は微笑んで足早に部屋に入ろうとした。

「いやっ、待て、おい」

兄が俺をハグする。驚いたがおずおずと背に回し、受け入れた。
親もいることだし、あんまりしないほうがいいことは分かる。

「お前、一人で寝れるの…?」
「う、うん。寝れるよ」
「ふうん……」

しばらく無言の兄が気になったが、俺はその後部屋に帰った。
昨日はケージャだったけど、いつも兄ちゃんと寝てたから変な感じがする。

もう帰ってきたんだから、別々なのは当たり前だ。
だが急いでベッドに潜り込んでからも、中々考えがまとまらず眠れなかった。



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