夫婦になった兄弟 | ナノ


▼ 19 溺れそう ※

太陽がじりじりと照りつける中、麦わら帽子をかぶった俺は海岸の桟橋に座り、釣りをしていた。
兄は部族の男達を引き連れて森で狩りをしており、俺も一応島に世話になっている身のため、こうして釣りや浜辺での漁を手伝っている。

「はあ……」
「どうしたユータ、ため息なんかついて。さては夜の営み疲れか?」

直球でセクハラをかまし隣に腰を下ろしたのは、俺に漁のやり方を教えてくれた中年男性、ゴウヤさんだ。彼は兄の側近エルハンさんの父親で、長老の息子でもある。

黒髪に恰幅のよい筋肉質な裸体、腰に布を巻いただけの部族の格好をしているが、度々一緒にいるのでもう慣れてきて、まるで同僚のような感覚だ。

「ち、ちがいますよ。毎回からかわないでください」
「相変わらず初々しいなあ、お前は。男同士だし、ちょうど俺の息子ぐらいの年頃だ。いいじゃないか」

浴衣を着た俺の肩を陽気にさすってくる。
仮にこの人が父親だったとしても普通はそんな話しないと思う。

「そういえば、ゴウヤさんは狩りに行かないんですか?」
「おお。俺はたまにしか行かんな。集落総出の大物が出たときくらいだ。狩猟は若い奴らの鍛練の場でもあるから、年寄りがいても邪魔なだけさ。だから今はこうしてのんびり漁生活というわけだ」

にやりと渋みのある横顔で竿を大きく海に振った。
彼の話によると、島の男に伝わる精霊力は20代から30代がピークで、主力として働き盛りらしい。

「そっか。だから兄ちゃんも毎日あんなに元気なのかな。エルハンさんもだけど。……ところで、ゴウヤさんも島の長だったんですか?」

長老一族だし、彼の息子が元部族長だということもあり、それとなく聞いてみた。すると彼は隣で豪快に笑い出した。

「はっはっは! 俺はそこまで強くない。前に話しただろう、島の長になるのは完全な実力主義であると。長老を見て分かるように、うちは元々シャーマンの家系でな。エルハンは二百年ぶりに誕生した長だったのだ。あいつが強かったのは、女だてらに勇ましかった俺の亡き妻の血だろう」

懐かしい眼差しで波間を眺めるゴウヤさんの話に聞き入る。
驚くべき話だが、彼の妻は女性のため精霊力さえ持たなかったものの、武器の扱いに優れた男勝りの女傑だったそうだ。

残念ながら十年ほど前に嵐による海難事故で亡くなってしまったというが、彼らの間に生まれたエルハンさんがのちに部族長になることも、島の神事における託宣に示されていたらしい。それが叶ったとき、ますます伝承の信憑性が増したという。

「親としては息子が長になったことが喜ばしく、誇らしかったよ。しかしそれから数年後、伝承の通りケージャが現れた。その圧倒的な強さを目の当たりにし、これはもう信じざるを得なくなった。我々碧の民は島の繁栄を何よりも願っているからな」

心から納得したように頷くゴウヤさんを見つめる。

「……そうだったんですか。でも、どうしてそこまで……この島十分繁栄していると思うんですけど」

伝説だかなんだか知らないが無関係の兄弟の俺たちがなぜ、そんな重責を背負わなければならないんだと、やはり悩ましさは消えない。

「まあ、繁栄とは永遠ではないからな。天災がわずかに抑えられているのも、この島が平和なのも、日々の祈祷のおかげだ。今は異国との交渉がうまくいっていて攻められずにすんでいるが、広い世界の中で文化とともに孤島を存続させるためには、備えが必要なのだよ」

だんだん真面目で壮大な話題になり、これまで文明に守られてきた現代っ子の自分は黙って聞くしかなくなった。

「しかしユータよ。お前の兄の話は聞いた。最初は信じられなかったが、不可思議なこともあるものだ。なんと言えばよいのか……召喚を願った民として我々も責任を感じている」

こちらを向いた彼に神妙な面持ちで頭を下げられてしまった。

二重人格のことは、彼ら長老一族と幹部しか知らない。しかし元の世界に帰れるということは、ラドさんも含めて、この身近な人々にすらまだ教えていない機密事項なのだ。

「でも本当に困ってるんですよ。大変なんですからね、俺……」
「ほう。それは、どちらと夫婦生活をするか、という意味か。ふむ。俺の意見だが、精力が強いほうがいいんじゃないか? ……いや、どちらも同じ男だったな! ははは!」

真面目な話をしていたのに、ぶちっと切れそうになった。
ほんとにこの人、ナチュラルにセクハラだ。島の人間は皆こんな楽観的というかポジティブなのか? みんな他人事だと思って。

「おっ、釣れたぞユータ!」
「……えっ、うそ、やったあ!」

現金な俺は目の前の獲物が波から上がって喜んだ。
こんなふうに島の生活に馴染んでいる場合じゃないのに。

そろそろ本当に決めなくては。どちらと性交しよう?
抜け出すためにはしなければならないのだ。





その夜、兄は帰ってくるのが遅かった。
住居の門番の人に聞いたところ、幹部集会で遅くなるらしい。

俺は入浴を済ませたあと、薄い浴衣に着替えて寝室のベッドに入った。
この広い島にひとりでいると心細い。なんだかんだ家族である兄がそばにいてくれると安心していた。

ぼんやりと薄目のまま考える。兄ちゃんに会いたいな。
振り返ってみれば、兄は伝承の四つ目の項目を知っていた。だからあの夜その気になっていたのだろうし、元の世界に帰るという、同じ意思を感じる。

普通に考えれば性交は兄ちゃんとすべきなのだろうか?
でも兄弟で内面は知ってるから恥ずかしさは増す。それに自分と同様、兄にも無理させているだろう。

ケージャは実際知り合って間もない男だ。妻扱いしてくるし、色んな初めてを奪われて腹も立った。
だが、強引で離してくれそうにない。結局いつも流されてしまい、俺は拒めないのだ。

「ん……う……」

どうしよう、とぐるぐる考えているうちに、俺は眠ってしまっていた。
しかしその眠りが次第に、知っている手の感触によって妨げられる。

「んあ……?」
「……先に寝てしまうとは。お前の寝顔は好きだが、起きているほうが嬉しいな」

横になった俺の浴衣の上半身が胸より下まではだけている。
悲鳴をあげそうになると、後ろに密着したケージャにさっと口を覆われた。
ドキドキしたまま、優しく唇を撫でられる。

「ああ……本当はお帰りの接吻がしたかったぞ。ユータ」
「……ばか野郎っ離せ! 寝込みは襲うなって自分が言ったのに…っ」
「そんな寝乱れた姿で帰りを待たれたら、普通の男は我慢できんだろう?」

自分の格好を見下ろす。確かに寝相は悪いが今回はぜったい兄の仕業だ。

「ちょ、ちょっと、……あぁっ…やだあっ!」

伸びてきた手に胸を柔らかく揉まれ、うなじに奴の唇が吸いつく。
足をばたつかせるが、筋肉質な太ももに挟まれて身動きがとれない。

熱を帯びた体とか、息づかいとか、この男仕事終わりで興奮してるのか?

「あ、ああぁ」

頬や耳たぶをはまれて声が漏れる。
ケージャは俺の太ももから浴衣をめくり、やらしい手つきで下着だけを下ろした。

「んあぁっ、なに、早いってばっ」
「……ん? 遅いぐらいだろう。三日ぶりだ。一度お前を味わってしまえば、これ以上はこらえられん」

色づく吐息まじりで俺をぎゅっと抱きしめ、腰を押しつけてきた。
兄の硬いモノがあたる。全身が一気に熱くなり、これから起こることに震え、下半身の力が抜けていく。

「だ、めえ……」

浴衣の裾から股間をまさぐられて、無意識に勃ち上がっていくものをゆっくりとしごかれる。
その間もちゅくちゅくと頬を舌でなぶられ、唇のすぐそばまで届きそうだった。

「ほら、ユータ、もう欲しがっているぞ……ここが濡れている」

耳元で信じがたいことを囁かれて、びくんと腰が跳ねる。
まさかと思ったが、すでに魔法を使われたのだろうか?
兄の指が優しく伝うそこはしっとりとし始めていた。

「あっ、あっ、や、いじんないで」
「無理をいうな、今からお前を良くしたいのだ」

中指がじっくり抜き差しされるたび、快感に全身がこすられる。なぜか俺は反抗できずに、腰をびくびく浮かせていた。

そのまま、うつぶせにされる。
ケージャは俺の上にのしかかってきて、先っぽをぐっと押し当てた。
俺は枕にしがみついて、兄のモノを受け止めようとした。

「んあぁっ…ひ、あっ…はい、っちゃ…うぅ!」

もう何度目だからか、そこがほぐれていたからか、最初から兄は腰を沈めてきた。短いうめきを漏らしながら、俺の背中ごと抱きしめ、ズプズプと動きを速めていく。

「あ、あ、ん、い、あぁ」
「よいぞ、ユータ、っく、…」

なぜお尻が気持ちいいのか分からないまま、俺は体格のまるで敵わない兄の大きな体に挟まれ、シーツに押しつけられ、腰を打ち付けられていた。

「やあぁ、ダメ、へんだよ、にいちゃ、イクっ」

じんじんしびれる感覚が迫ってきて、顔をあげた。すると顎を持たれて、指が俺の口の中に入ってきた。

「ん、んぅ〜っ、ふ、ぅ、う」
「吸うのだ、ユータ、…そうだ、いいぞ」

なぜか俺は兄の指をしゃぶったまま、ぱんぱんと尻を当てられた。この背徳的な行いは何なんだ、なぜ兄ちゃんはこんなことをするんだ。
そんな考えがどうでもよくなるほど、下半身がとろけていて、背中にくっつく熱い兄の胸がじんわり心地よかった。

「はぁっ、もういく、いっちゃう〜〜っっ」

苦しくなり訴えると、後ろの兄も「俺もだ、いくぞ」と短く答え、手の甲をぎゅっと握ってきた。

大きく背中がしなり、腰の跳ねが抑えられなくなる。
思考が飛びそうになったとき、中に兄の出したものを感じた。 

とても長い、射精をされてその間視点が回りそうになる。
でも視界に映ったものは枕だけで、少しだけ寂しい感情に陥った。

「ん、んあ……も、う、……どいて、ケージャ」

こんな考え方はあれだが、俺は今日のノルマも終わったのだと思い後ろの兄に頼んだ。
しかし兄はまだ首にちゅっとしてきたり、胸の下に手をいれたまま俺のことを抱きしめてくる。

さっきの激しさから一転して、大きい動物に抱きつかれてるみたいだ。

「……おいっ、この体勢いやだってっ」

じれったくなって主張すると、やっと奴は起き上がった。
ずるりと長いものを抜き出し、俺に寝返りを打たせてまた見下ろしてくる。

ようやくいつもと同じの、茶髪でこんがり焼けた肌の男と対面した。ものすごい汗だくだがすっきりした面持ちで笑みを向けてくる。

「どうしたのだ。一緒に達しただろう、良くはなかったか?」

分かりきった答えを求め、俺の上に重なり乗ってきた。
腹にぺニスをこすりつけてきて、覆われるようにハグされる。

「んあぁっ……だって、……あ、……後ろからいきなりすんなってば…」
「それは悪かった。しかしな……こうして正面からお前を抱くと、接吻したくなってしまうのだ」

頬をせつなげに指先で撫でられて、言葉につまる。

「に、にいちゃ……もう終わっただろ、お風呂はいろ…?」
「ん? 何を言っている。こんなにすぐ終わるわけがない。俺はまだまだ元気だぞ」

上体を起こし、薄明かりの中で浮かびあがる均整のとれた肉体。
つい目を奪われていると、奴は俺の両足を持ち上げた。

「……えっ? うそだろ、なんでまたでかくなってんだよ、さっきしたのに!」
「お前が可愛いせいだ。さあ、今度は望み通り、このまま抱いてやろう。すべてを見渡せて、とてもよい眺めだ」

満悦して笑う姿にぎょっとする。股の間に鍛えられた腹筋が近づいたかと思ったら、そり立った兄のモノが再び中へ入り込んできた。

「あ、あ、やあ……おっきい、よ……んあぁっ」

俺の腰をがしりと掴んでケージャの下半身が前後に揺れる。
何度か繰り返されるとあらがえなくなり、シーツを掴んで快感に耐えようとした。

だが兄が俺のまで撫でてきて、腰を動かしながら一緒に指先でしごいていく。

「やだ、そこも、触んなぁ」
「……うん? してほしいのだろう、素直になれ」

どうしてなのか、兄の手が気持ち良くて、体が言うことをきかない。兄弟でこんなふうに感じてしまうとは。

「んあ、あぁ、いっぱい突くのやめてえ、兄ちゃんっ」
「ああ、そんな風に懇願されては、もっとしてやりたくなる」

兄のやらしい腰つきが追いたててきて、また限界がやってくる。
そんなとき、広い肩幅が迫り、ケージャが俺の脇腹をいとおしそうになぞった。

「ユータ、見てみろ。俺達が交わっているとき、この刻印が浮かび上がるのだ。互いを近くに感じ、魂同士が喜びあっている証拠だ。印はお前のからだの緊張をほぐす癒しの効果もある。こういう意味でも守護の力が効いているのだぞ」

誇り高く説いてくるが、俺はそれどころではないし体を攻めてくる兄から守ってほしいと涙を浮かべていた。

「もういい、またイク、兄ちゃんのばかあっ」
「ふふ、なんと可愛らしい達し方なのだ、お前は……よいぞ、イけ、ユータ」

急に覆い被さってきたので背中に手を回した。もっと求めていると思われたのか、ぎゅううと熱い体に閉じこめられ、奥を継続的に突かれる。

「は、んぁ、ぃ、いく、イクぅ」

中がイッている間も兄の勢いは止まらず、ガクガクと腰が暴れる。兄の体に掴まっていると前からも荒い呼吸が響いた。

「くっ、ユータ、そんなに締めたらいかん、……俺も、出してしまう…!」

不意の出来事だったのか、中にみっちり入ったものが大きく脈打っている。
ああ、また兄に出されてしまったーー。流れる意識で俺はぼんやり考えていた。



変な気分がぬぐえない。ふわふわしたものがまとわりついて、兄の体に溺れていく。
その後も俺は熱のこもった愛撫を兄から受け続け、だらんとした腕を太い首に回していた。

「ねえ兄ちゃん。なんでもっと気持ちよくなってるの…? この印のせい?」
「馬鹿をいうな。お前に快感を与えるのは俺の仕事だ。……お前の中が、きっと俺の逸物に慣れてきたのだろう。もう三度目だからな」

上機嫌に笑まれて立ち止まる。正確には四回目だと告げたら「お前の兄は数にはいれん」と一蹴された。
鋭い眼差しが近づいたかと思えば、おでこにキスを落とされる。

唇に出来ない代わりに、ケージャは俺の顔や首、体など色々なとこを吸ってきて、もう感覚が過敏になっていた。
これならキスで済まされたほうがマシなくらいだ。

「あっ、ああっ、もう、はなしてえっ」
「離すものか。まだまだ抱き足りん、ほら、もっと感じるのだ……ユータ」

俺は兄の精力を見くびっていた。今までは毎回一度きりで終わっていたから、それが普通なのだと思っていた。

しかし何度も注がれて、脱力する体を愛情たっぷりに抱きすくめられる。
そんな兄を前にして、なぜ本気で抵抗出来ないのだろう。
俺は、気持ちいいことが好きになってしまったのか?

兄ちゃんがいるのに。

「……兄ちゃん、兄ちゃん……っ」

名前を呼んで俺も兄のことを求めた。
ケージャが異変に気づいたのか、顔を見下ろして近づけてくる。

「どうした? ここにいるぞ、ユータ。安心しろ」

優しい微笑みも言い方も、兄そのものだった。
せつなさが広がり兄の胸板に抱きついて包まれる。

俺はきっとケージャにも、自分の兄になってほしいんだ。そうすれば、抱かれてもいいっていう理由が出来るから。

でも今そうはっきりとは言えずにいた。
この感情はいったい何なのだろう。気持ちよさのせいで、まともな思考がままならなくなっていく。

それから二日間、俺は兄に体を許してしまった。



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