>> 13.君に捧げる演奏会



「あーマジ楽しかったな!」

「うん。また行けるといいね」

タクシーを降りてすぐ。
翔さんのマンションのエレベーターに
少し時間差をつけて乗り込む。

今夜は、翔さんの同級生が集まってバーベキュー大会が開かれていて。

「家族持ちは、親子で参加してるから」

なんて翔さんの言葉に甘えて。
私なんて家族でもないのに…
ちゃっかりメンバーのひとりとして参加させてもらっていた。

「あー。調子に乗って飲んだかなー」

部屋に戻るなり、ソファーにドカッと腰を下ろす翔さん。

「お水いる?」

「うん」

冷蔵庫からミネラルウォーターを出して。
ペットボトルのまま翔さんに手渡す。

「あーうめー。由衣ちゃん、楽しかった?」

「もちろん!皆さん、イイ人ばっかりだね」

「そっか?普通だよ」

「ううん。皆さんすごく優しくて、いっぱいお世話になっちゃった」

「年の近い人もいたんじゃね?」

「いたよ。すごいよね、私より1歳上で…子どもが4歳って」

「子どもが成人した時40代ってイイよなー」

「うんうん」

確かに。
子どもにとっても、若い両親は嬉しいものなのかもしれない。

「あぁー俺もう30代じゃん…」

「人は人。自分は自分。でしょ?」

だってもう純粋に。
翔さんにはアイドル以外の道なんて存在していないのだから。

「ごめん、湿っぽくなったな」

「ううん」

「飲み直すか!」

「まだ飲むの?」

飲み過ぎたから、お水飲んだんじゃ?

「だって啓太のところ、双子ちゃんができたって言うし」

「うん」

「英司は昇進だろ」

「そう言ってたね?」

「孝史は再婚!」

「奥さんキレイだったね」

「めでたいことばっかじゃん」

「だから飲むの?」

「そのとーり!さすが名探偵!」

「いや。名探偵じゃないし」

そんなの。
すぐ分かることだし。

「ね、大吟醸飲む?」

「えっ?翔さん味分かんの?」

せっかくのイイお酒は…酔う前に飲まないと。

「全部は飲まないから…冷やで1杯ずつ。ね?」

「私も付き合うの?」

「とーぜんです」

「はいはい」

こういう時の翔さんは折れないから…
素直に言うことを聞いておく。

いかにも高級酒だと主張している
ラベルを眺めて。一升瓶の蓋を開ける。

「あぁーイイ匂い」

間違いなく、イイ酒だ。

小さめのコップ…と言っても150mlは入るかな…?
なみなみと注いで。テーブルに2つ並べる。

「お待たせ」

「来たね!乾杯しようぜ」

「ん。じゃあ、翔さんのお友達のたくさんの幸せと、」

「俺たちの幸せを祈って」

「え?」

「カンパーイ!」

今何か…

ちょっと。

いや、かなり。

嬉しいことを言ってくれた気がするけど…

「くぅーっ、うめぇーなコレ!」

…酔ってるからか。

「ん。美味しい」

このお酒が美味しいのは、確かだけど。

「由衣ちゃん」

「ん?」

「ちょっと一緒に来て?」

「えっ?」

私の返事を待たずに、翔さんは私を部屋の隅に連れていく。

「一曲。聞いて欲しいんだけど」

「う、ん」

電子ピアノの鍵盤を人差し指でなぞって。
翔さんはイスに腰掛ける。

「あぁー、覚えてねーかも…」

「大丈夫?」

素面ならともかく。
今夜の翔さんは完全な酔っ払い。

「ダメだったら諦めるから、」

「うん。私ここに立ってていいの?」

「いいよ」

コホン、と小さく咳払いをして。
翔さんが弾き始めたその曲は。

「神、様の…」

翔さんの主演映画のエンディング。
盲目の天才ピアニストの優しい、優しい、曲。

真剣な表情で鍵盤を叩く翔さんは。
…ちょっと顔が怖いけど。

「ふぅー」

「翔さん、すごい!何か感動した」

「ホント?この曲、初めて人前で弾いた」

「そうなの?」

「ずっと練習してたんだけどさぁ…難しくて」

「うん」

何だか急に胸が熱くなってきて。
別に、私のために練習した訳じゃないのに
私に聞かせるために頑張ってくれたようにも感じられて…

「由衣ちゃん?」

「ごめ…、何か、感動しちゃ、って」

指で涙を拭った直後、おでこが翔さんの胸にぶつかる。

「ありがとう。まさかそんなに感動してくれるとは思ってなかったから」

「…ん」

小さくキスが落とされて。
再びきつく抱きしめられる。

「翔、さん。苦し…」

「イチとハルみたいな夫婦。理想なんだ」

「え?」

「ハルはあんなに穏やかじゃなくて、泣き虫でもイイけど」

「…ん?」

それって…私のこと?

「将来のことは誰にも分かんねぇーけど」

「うん」

「俺なりに、真剣に付き合ってるから」

「翔、さん…」

「いつか。俺たちも今日の連中に祝ってもらえると…いいな」

「45点」

「は?何ソレ」

翔さんはビックリしたのか
体を離して私をまじまじと見つめてくる。

「今のがプロポーズなら、ギリギリ赤点回避の45点」

「え?マジ?超厳しくね?」

「国民的スーパーアイドル嵐の櫻井翔なら、」

「もっと考えろ、と」

「そうだね。そもそもさぁ、」

「…なに?」

「酔った勢いってのが一番ダメ。絶対ダメ」

「…ご、めん」

翔さんが、目に見えて落胆してるから。
腕を翔さんの首に引っ掛けて。
かかとを上げて唇を奪う。

「翔さん、ありがと」

「え?」

「数年後に、本番があることを祈って45点覚えとく」

「いや、忘れていいよ…」

「次回は、ロマンチックにお願いします!」

「おぅ!任せとけ!」

握りしめた拳を顔の位置まで上げて。
カッコ良く宣言してくれたけど。


本当に本番があったところで…

過度な期待は禁物だ。

だって。

だって私の彼は。




あの、櫻井翔だから。





-END-
こ…こんなオチでごめんなさい〜リクエスト企画でしたっ!

2012.07.17


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