スーツケース

電話がかかってきて数分後には日々人が来た。
大きなスーツケースを引いている。
お酒をひどく飲んでいるようで顔は赤い、足はおぼついてないわでビックリした。

「日々人…どうしたの?」
「いやちょっと近く通ったから」
そういうこと聞きたいわけじゃないんだけどな
と思いながら
「あぁ…そなんだ」
と答えてしまう。

日々人のスリッパを出して
水を持ってこようと
部屋の奥に行こうとするちゃんに


「ねぇ」
「身体貸して」





色素の薄い目に睨まれるように見つめられる。
肩を掴まれ勢いよくキスをされる。
床に押さえつけられる。
後頭部や背中が痛い。
それにも気付いてくれず舌がからまる。
強い酒の香りが鼻に抜ける。
「待ってよ、日々人…」と抵抗するが腕を上に上げられ片手で固定される。
大きな手に、力に、敵うわけがない。
手首が痛い。
首筋を舐められ、噛まれる。
「痛っ」
やっぱり聞いてくれず、今度はキスマークを付けられたのか付けられたであろうところが熱い。
こんな日々人は見たことがない。
怖い。


胸への愛撫も疎かに、日々人の手がスカートをまくりあげる。
ショーツの横から指をいれようとする。
「待って、やだ…痛い…」
「入るじゃん、しかも2本も」
いいところで動かされて喘いでしまう。
「なに?無理やりなのに感じてんの?」
と冷たく言われる。
目には蔑みの色がある。


「どうしたの日々人…こんなの日々人らしくないよ…」

「…ってなんだよ…」
「え?」
「おれらしいってなんだよ!!」
ちゃんの手首を抑えていた手が床を殴る。
それは耳のすぐ横だった。
日々人の顔が歪む。
眉間に見たことのない皺がたくさん。
「そうだね、ごめん」
そう言って抵抗するのをやめた。



乱暴に、自分勝手に前後運動をされながら考えていた。

あぁ、私はわかったふりをしていたのだろうか。
いつも愛してると言ってくれ、優しく抱いてくれた彼はどこにいったのだろう。
きっとあのスーツケースの中にはいっているのだろう。

「…どこ見てんの?」
「…わかんない」
「んだよ!おれのこと見ろよ!」


鎖骨あたりを噛まれ、きつくキスマークを付けられた。
よくわからない苛立ちをぶつけられる。





私は置いていかれるのだろう。


だから彼は私に最悪な男、という印象を残していくのだろう。
私なら付いて行くといいかねないから。
待っているといいかねないから。

それが今の彼にとって、優しくできないくらいの、スーツケースに入らないくらいの荷物なのだろう。



「あー…中でイく」
と告げられ、一番奥で出された。
イったあとも、彼に何度も何度も奥を突かれ、気持ちがいいのと、被害者意識が産まれてしまって、心がついていかなかった。





別に何を話すことなく、日々人にお風呂をすすめ、一緒のベッドで寝た。
眠れなかった。
そのうちに日々人は泣き出して「ごめん…ちゃんごめんね」と言って抱きついてきた。
いつもの日々人が戻ってきたようで、泣きそうになってしまう。
私は泣いてはいけない。
「大丈夫」
「…明日病院でピルもらってくるから」
「そうじゃ…なくて…」
「…っ…ごめん…」
大丈夫。と何度も何度も繰り返した。




まだ夜が明けていない、暗い頃、日々人が起きた。
着てきた服に着替えている音がした。

あぁ、出て行くのだろうとわかった。



「ちゃん…」
と小さく呼ばれる。
身体も目も動かせなかった。

ギシっと音がする。
ベッド脇に座ったのだろう。
髪を優しく、今までで一番優しく撫でられる。


「ごめんな、おれこれからどうなるかわからないんだ。
だからついて来いとも言えねぇし…お前もいい年齢だから待ってろとも言えねぇ」

おれ珍しく弱気なんだ、
と夜に消えそうな声で言う。


「だから…」

耳元で好きな人が囁く。



玄関の扉が閉まったのを聞いて、ちゃんは声をあげて、泣いて泣いた。






「……やっぱ、さようならって言えねぇわ。」

涙が1つ髪に落ちてつたった。




スーツケース 1.5


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