うさぎちゃん

「あれ、うさぎちゃんがいるじゃん」
「あ、わ、南波さん」

「可愛いー」と言いながら近付いてくる。
「今日の司会、急遽やってくれるんだよね?」
とか
「おれより若いよね、いくつ?」
とか
「…このうさぎちゃんの隣におれいて捕まらない?」
とか付き人さんに聞いて笑いをとっている。


私は今うさぎちゃんである。
顎下でマジックテープで止めれる、顔面が出るかたちのうさぎ頭と
チューブトップとショートパンツ、
お尻にはしっぽ、
手袋にレッグウォーマーというかたちだ。
頭が重たくて大きい。
そこがどこかコミカルな印象を与えるが、全部白のふわふわでできていて、すごく可愛い。
moon jumperとかけてのイベント会社の趣味なのだろう。
JAXAはよくこれにOKを出したものだ。



今日は南波日々人の講演会?トークショーくらいのゆるいものだ。
小中学生と保護者対象のもので、最後に一緒に写真も撮れるプレミアものだ。
月から帰ってきた彼は大人気だ。

イケメン、長身、小顔…イケメン!
そして笑うと少年のような彼に、世の女性が騒がないわけがなく、また年齢も比較的若いので子どもたちは身近に感じれるのかもしれない。


私は受付をしていたのだが、司会の女性が渋滞にはまって間に合いそうにないということで急遽司会をすることになった。
前述したが、南波日々人は大忙しでこのあとも予定が詰め詰めのようだ。
遅れることがあってはならない。
イベントコンパニオンの仕事をしたことがあったので、家電量販店なんかでマイクを持って話したことがあったが…ちょっと不安だ。


バタバタしてるところで南波さんに捕まった。
挨拶しに行こうとしていたところなのでちょうどよかったが。



舞台脇でも気さくに話しかけてくれ
「…緊張してる?」
「かるく…南波さんは全然緊張なさらないんですね」
「うん、キミがいるから大丈夫かなと」
「うわ、超プレッシャー…やる気でてきました」
「でしょ?」
と言ってニシシと笑う。
あ、生で見てもやっぱり笑うと可愛いな。
「このあとおれと月でデートって思って頑張ってよ」衣装の耳に言いながら、中にはいっている針金の角度を直してくれる。
不思議と嫌味がない言葉だった。
「ナンパされたーって舞台上で言ってきますね」
と笑って出て行った。





実際、彼女の方がすごかった。
とても急遽決まった子ではないくらい。
「南波日々人飛行士のお友達でうさぎのちゃんです、今日はよろしくお願いしまーす」
と出て行ったと思えば
「月にうさぎはいないんだよー」
と子どもにからかわれ
「さぁ、どうでしょうか。
私はこういう設定ですが、」

と保護者からの笑いも取りつつ、

「日々人飛行士は宇宙人を見たことあると仰ってるのは有名な話です」
「もしかしたら月で何かを見たかもしれませんね。
今日はそこらへんも含めて、お話伺いたいと思います」
としっかりした返しもする。


「それでは、みなさんで呼んでみましょうー!
せーのって言ったら「日々人飛行士ー」って呼んでくださいね!
ではいきますよー!せーのッ」


大半の声変わりしてない可愛い声と拍手に包まれておれは舞台上へ出て行った。





「日々人飛行士、ここは資料があるのでスクリーンに映しながら話ましょうか」
「頼れるねー、うさぎちゃん」
「そうなんです、私頼れるうさぎちゃんなんですよー。
…今気付きました?」
とスクリーンに映るまでの時間稼ぎもしてくれ、おれのフォローもきちんとしてくれた。
おれらの掛け合いはなかなか評判だった。


小さな女の子にはおれと写真よりもうさぎちゃんと写真が撮りたいと泣かれた。
大人気じゃないか、うさぎちゃん。

慌てて彼女が出てきて
「お待たせしましたー!大きな耳なのでキミが泣いてるの聞こえたよー」
と笑顔で出てくる。

子どもより保護者の方がおれに会いたかったとわかると、すかさず写真のポジションを変更してくれる気のきく子だった。


結局写真にはおれとうさぎちゃんと子どもと保護者(特にお父さん方はうさぎちゃんと撮りたそうだった)みたいな変な構図の写真がほとんどだった。




「お疲れ様でしたー」
「うさぎちゃん頑張ったねー!こんな楽しかったのはじめてだよー!」
いつもこの子としたいよーと付き人さんに彼は言う。
「次の講演会はかたいものなんで無理ですよー」と言われ拗ねてみせ、また周りの笑いをとっていた。
ギリギリのラインもこの人だから許されるのだろう。


私からしたら月のような存在で、手が届かない人だな。
月と同じで見えない部分が大半だけれど。
この人のおかげで月がもっと好きになりそうだ。




着替えに行こうと、頭の部分を取った時に後ろから名前を呼ばれた。
「やっぱりうさぎちゃんじゃなくても可愛いね。はい、これ」
あとで読んでね、ラブレターと耳元で言って、目の前で笑う。
…ずるいな。
これだからイケメンは。
手をひらひらさせながら次のスケジュールに向かったようだ。


紙を開くと

うさぎのちゃんちゃん、と名前までご丁寧に書いてくれ、電話番号が添えてあった。
下の方には「本当にデートしない?」と書いてあった。



気持ちが大気圏を突破して、月で跳ねていた。
月がどんなところなんて知らないけど、私今日はうさぎちゃんだから。
月に恋しそうだ。


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