三味線を弾く、弾いていた

「新田おはようさん!」
「おはよう…さん。
おはようさんっておっさんくらいしか使ってるの聞いたことないっす」
「なぜ敬語!」
「おっさんだから」
あはは!敬意をはらってくれているのねと言いながら笑っている。
おっさんには程遠いTシャツに生脚ショートパンツというラフな格好だ。


ちゃんは新田の好きな人だ。
大学の研究で校外に行くため、他のメンバーとの待ち合わせをしている。


今年の夏は暑い。
毎年ニュースで言っている、決まり文句にも似たフレーズだ。
何もしていなくても汗が流れる。
セミの鳴き声で耳が痛い。


「しっかし今日は暑いねえ…」
と言いながら、
ちゃんはTシャツの裾をパタパタさせる。


「腹見えてるぞ」
「いやんエッチ」
「もっと感情こめて言えよ」
てか
「なかなかな腹筋で」
「そだね、女子にしてはあるかもねー」
「…モテねぇな」
「あはは!モテねぇな!
昔の彼氏に別れたあとで嫌だったって言われたことある」
「そいつが怠慢な身体してるだけじやねぇか」
「そうだよ!新田もっと言ってー」
あれ傷付いたんだよねーと続けた。


「今度からお腹見せてから付き合うようにするわー」
「なんでだよ」
「おっさんは学んだのです!」
「自分より腹筋ある奴にしとけよ」
「名案!」
と天に手を広げてくるくると回っている。
意味がわからないが可愛い。
ゆるくウェーブがかかった髪がふわふわしている。


くるくると回ったあと、新田の前に来て
「新田腹筋しゅごいですねー」
「だろ?」
新田のTシャツをめくりながら話す。
かがんでいるので自然と上目で話されてニコニコしている彼女はますます可愛く見える。
「新田にはお腹見せたし、怠慢とはほど遠い身体してるから付き合えるねー付き合ってよー」
と恥ずかしい言葉でもニコニコしながら言う。
「…じゃあ…」

と言ったところで、彼女のお尻のポケットから着信音が聞こえる。


「あ、電話。
奴らどこにいるんだろうねーはいはいー」
と電話に出た。




グループのメンバーは先に行っているということだった。
「先行ってるって!新田行こうぜー」

先ほどのような本気かどうかわからない言葉でも胸が騒いでしまう。
このようなことを言われるのは1度ではなく、実は何度かあったのだ。
いつも自分勝手に言っては逃げられている。


「新田?大丈夫?気分悪い?倒れちゃう?」
とちゃんが新田を覗き込む。
「ああ、悪い。…いや、ちゃんが悪い」
「え、ごめん!なさい!」
おっさんだからでしょうか!と続ける。

「ごめんって思うならキスして」
「え!脅迫!」
「…もうそうやってふざけて逃げるのやめて」
「う…」
聞こえるか聞こえないかの声でバレてたか、とちゃんはつぶやいた。


周りをチラっとみて、
片手で自分の髪をくしゃくしゃとし、
照れ隠しをしたあと、
ウエッジソールのサンダルを精一杯背伸びさせて、
新田のTシャツを掴み。
やっと「ごめんね?」と言って小さくキスをした。



三味線を弾く:相手の言うのに調子を合わせて適当に応対する。また、事実でないことを言ってごまかす。「そらとぼけて―・く」(コトバンクより)


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