スーツケース 1.5

それから、あれから、
仕事こそキチンと行ったが

毎日お酒を呑まないと眠れなくなり
呑まない日は決まって夢を見て
呑むと寝つきは良いものの
途中で起きたり
安眠とは離れていった

ビールが飲めるようになった
お酒ならなんでも。
ただ1缶で満足した



動画をみたり
買い物に行ったり
勉強したり
ただ外で日々人に似た人を見ると
追いかけてしまう。
外が億劫になるのにそう時間はかからなかった。


つまるところ
私は正しく現実逃避をした



心はツライことだと判断したようで
脳が忘れさせようとしているのか
私自身が忘れようとしているのかわからなかったが
日々人が私から離れていったように
記憶も離れていった


ただ一つわかったことは
本当にツライ時には「ツライ」とは言えないことだった

記憶が薄れていくことにジレンマを感じた




私は日本に帰ることにした。
日々人がロシアにいることはムッちゃんから聞いていた。

でもロシアに行く選択肢はなかった。



風邪をひくたびに片耳が聞こえが悪くなってしまって、割と慢性的になってしまった。

接客業はツラくなってしまった。
英語を聞き取るのがツラくなった。
日本語は多少…口の動きでもわかるから。


そんな理由をつけては
私は日々人と関連することから離れたかった。


ムッちゃんには日本に着いてから日本に帰ったことをメールをした。
忙しいのか何も返ってこなかったが、それでよかった。



そして日本に来て2、3ヶ月してから、厄介な人につきまとわれた。
時々カメラを持った人がいる。
日本では料亭で働いたのだが、そこにまで来た。
気付いていないとでも思っているのだろうか。
それとも気付いているとわかっていながらやっているのだろうか。


イライラした。
イライラは余計、耳に負荷をかけた。




通っているジムにも来た。
座って筋トレしているところを
聞こえ辛い耳の方から撮られた。

別の日には「もしかして耳聴こえにくい?」と話しかけてきた人がいた。
「はぁ、少し」くらいにしか答えなかったが、それよりも「もしかして南波日々人さんの恋人ですか?」の問いの方が重要だったみたいで、私の「はぁ、少し」は聞いてなかった。

「人違いだと思いますが」




なぜその質問?
その疑問はすぐ解決された。



数週間後、コンビニで見つけた週刊誌の表紙に「宇宙飛行士に捨てられた女性のいま!」みたいなのが載っていた。

日々人に、とは書いてなかったが、だいたいの人がみればわかる内容だ。


わざわざ日々人が月から帰ってきた時の泣きじゃくっている私の写真が(やはりこれも見る人が見ればわかる感じで)載っていた。
一緒に歩いている写真も。
懐かしいなーなんてイライラを通り越して思っていた。


私の耳のことが書いてあった。
料亭のことも、ジム通いをしている、とか。
本当にいろいろ。
本当に面白おかしく。




日々人と最後に話してもうすぐ2年になろうとしていた。
いろいろな感情が沸騰するように、湧き水のように、忘れようとしていたことも同じようにどこからか出てきた。



最後の夜のことを一番強く思い出してしまい、コンビニで週刊誌を持ちながら、その場に小さくなってうなだれた。




ーーーーーキ リ ト リーーーーー

これ以上は書けないかもしれないです。
進展なしで後味クッソ悪いのでリンクはトップにしませんでした。

難聴のことについて、もし間違った表現がありましたらすいません。


ツライことは本人が憶えていようと思っても、(自分に罪悪感があるものは)自分の意思に関係なく本当に消そうとします。
失恋ではないけれど、実際体験してみて思いました。

…これ書かないとなんか病んで病んで次書けなかったのよ! ...φ(:3」∠)_


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