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モトラド達の話より後の時間軸です

【モトラド達の話U】
-a Pleasing Motorrads-



それじゃあごはん行ってくるね。お留守番よろしく。
そう言って、レイとキノは出て行った。僕は閉まる扉をまじまじと見つめる。

「それにしても仲良くなったなぁ。警戒心が全くない」

僕が呟くと、エルメスが乗っかってきた。

「レイは最初からなかったよね、警戒心」
「そこがレイの良い所じゃないか」

僕は当初のキノを思い出して言った。
旅路を共にするといっても、キノの警戒心は凄まじかった。あの早打ちは、その成果が表れた結果なのだろう。

しかしながら、人の感情に敏感なこちらとしては、気の休まる時がなかった。

「僕なんか、レイがいつ撃たれるかと気が気じゃなかった」

自分の周囲に動くものがあるというのは、対象に悪意がなくとも緊張するもんだということを、キノから教わったようなものだ。
もっとも、あそこまで自然な警戒心を持てる人間は、そうそういないのだろうが。

「キノがそんなことするわけないじゃん」

エルメスが、いつもの調子で言う。

今は理解できるが、当初は知る由もなかった。
レイが緊張していないからといって、その状態のキノを放っておくなんて。
こいつは相棒失格じゃないのかとさえ思った。

「それとも、信頼してるってことかな…?」
「なに?」
「いや」

調子の良いこいつにそんなことを聞いたって、はぐらかされるのが落ちだろう。
僕は思い直して言った。

「キノのこと、ずいぶんわかってるんだと思って」
「…あれ、やいてる?」

やっぱり。

「そんなわけないだろ。エンジンの調子が悪いんじゃないの? エルメス」
「ひどいなー」
「どうしてすぐ、そういうことに繋げようとするんだよ」

色ぼけモトラドなんて、前例がない。
そもそもモトラドに情欲があるとは思えないし。
エルメスはこの調子で、本気と冗談の区別がつかないし。

「すこしは進んだかと思ったのにー」
「僕に手があったら殴ってる」
「モトラドに手はないけどね」
「わかってるよ」

調子狂うやつだ。

「冗談に決まってるだろ」
「わかってるよー」
「本当に?」
「うんうん」

エルメスが、わかっているのかわかっていないのか、よくわからない声を出す。
こいつの感情はさっぱり見えない。それもまた、モトラドに恋愛感情がないという持論の根拠の一つだが。

「セシルはまじめだよね」
「エルメスは不真面目だって意味?」
「ちゃんと走るよ。文句は言うけど」
「文句は言うのか」
「セシルも言うでしょ?」
「まあ、否定はしないけど……」

不真面目というか、おしゃべりだなとは思う。

「エルメスと話しているから、文句を言う暇がない」

おそらく自分は口数の少ない方だ。
自覚はあるが、しかし、話しかけてくる相手を無視するほど拒否的では無い。
でも、いかんせん数が多すぎる。気がつけば、エルメスとばかり話している気がする。

もっとも、前はふたりきりだったから、比べることはできないけれど。

「レイよりぼくを選んでくれたわけかあ」
「誤解を生むような表現をするなよ」

調子にのっているらしいエルメスに、少しだけ怒気を込めて言ってやる。
エルメスは「おおこわい」なんて笑ってから、

「ところで、まじめな話なんだけど」

急に調子を変えて言った。

「真面目な話?」
「…………」

エルメスは黙る。
めずらしく真剣な雰囲気だ。考え込んでいるようにも見える。

迷っているのか?
言いにくいことなのか?

「セシルさ、」

しばらくたってから、エルメスが口を開く。

なんだろう。
もしかして本当にエンジンの調子が悪くて、しばらく離脱するとか?
それともフレームにガタが来ていて、もう旅には出れないとかだろうか?

最悪の事態を考える。
緊張が走る。



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