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「そろそろ、ぼくを好きになってもよくない?」
前言撤回。こいつは何も考えていない。
ただの馬鹿だ。
「……残念ながら」
冷やかに返す。
そして、茶番に付き合ってしまった自分にがっかりした。
「まぎらわしいことするな。…バカが」
「なにがまぎらわしいのさ?」
「大体しつこいんだ! 好きになるかわからないって言ったのに…!」
やりようのない感情を、エルメスにぶつける。
断じて心配ではない。断じて。
「だっておかしいよ」
「なにが?」
エルメスが、感情がこもっているような、いないような。平然としたいつもの口調で言う。
「ぼくはどんどん好きになってるんだけどなー。セシルのこと」
「…………」
あまりの発言に二の句が継げずにいると、
「あ、照れてる?」
エルメスから、ほくそ笑むような声が聞こえた。
「…あきれてるんだ」
「つまり口説いてるってことなんだけど」
「解説するな」
「やっぱ照れてるでしょ?」
「照れてない」
「照れてるー」
しつこい。
「照れてないっつーの!」
あまりのしつこさに語気が荒れる。
瞬間、さすがに後悔が横切ったが、
「いや、照れてるでしょ」
エルメスはいつも通りだった。
「……うるさい。黙れポンコツ」
少しだけ安心を感じてしまった。くやしい。
でもまあ、エルメスのおしゃべりに付き合うのは、悪くない。
「ナットが緩んでるんじゃないのか? キノに締め直してもらえよ」
「ひどいなー。じつにセシルらしいけど」
エルメスは気にした風もなく、またいつもの調子で笑った。
そのエルメスには、レイとは違う種類の――好意のようなものを、感じなくもない。
fin
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a Pleasing Motorrads
:愉快なモトラドたち
(※Motorradは独語だが、英語の名詞として使用、複数形表現もそれに準じる形とした)