memo | ナノ


SS:千知の受難


2011/10/11

ゆったりとした音楽、所狭しと並べられた雑貨……周りには、女とカップルしかいない。
俺は今、何故か大崎と買い物に来ていた。

「ごめんね、付き合わせちゃって」

手にしていた木造りの箸を元の場所に置きながら、大崎が俺を見る。

「いや……特に用事もねぇし」

事の発端は、学校で帰り支度をしていた時だ。兄の誕生日プレゼントを選ぶのを手伝ってほしいと頼まれた。
そういうことは魁璃の方が適任だと言ったが、二年の教室に行く勇気が出ないらしい。代わりに行ってきてやると申し出たものの、何故か止められた。
先の通り、別に用事があったわけでもないから付いてきたという経緯だ。

「でも、つまんなくない?ごめんね……」

さっきから謝ってばっかだな、コイツ。
今更何を心配しているというのか。

「まあ、俺一人じゃこねぇ店だな。けど、つまんなくねぇし、第一目的は俺を楽しませるんじゃなくて兄貴のプレゼントを買うことだろ」

しょげた顔をしている大崎にデコピンしてやった。

「いたっ」

「自分で誘っておいて、そんな顔すんなよ」

「……うん。ありがとう、耶雲君」

額を押さえながら、大崎が微笑む。
コイツは、いつも過剰なくらい自分に自信が無くて人の顔色ばかり伺っている奴だ。その分ちょっとしたことで大げさなくらい喜んだりするし、ころころ表情を変える。それが鬱陶しいと思うこともあるが。
少なくとも俺の周りにはいないタイプで、どうしていいのか戸惑うことが多い。

「で、どんなもの買うのか決まってんのか?」

「決まってたら耶雲君に来てもらってないよ」

「大体だよ、大体。食いもんとか花とか」

大崎は“うーん”と唸った後、首を傾げた。

「耶雲君だったら、何貰ったら嬉しい?」

「俺の好み訊いてどうすんだよ……」

「参考になるかもしれないでしょ?男の子だし」

「大事な妹からの贈り物なら、なんでも嬉しいんじゃねぇの?」

「そういうのが一番困るのっ!」

当たり障りのない返答をしたつもりが怒られた。面倒なことになった。自分が何を貰ったら嬉しいかなんて、考えたことがない。
大事な人から貰った物ならなんでも嬉しい、というのは結構的を得ていると思うのだが。

「じゃあ、貰って困るものは?」

答えられない俺を見かねてか、大崎は質問を変えてきた。

「甘いもの」

「え、耶雲君甘いもの苦手なの?」

「苦手っつーか……食べれねぇこともねぇけど」

「へぇー。バレンタインいっぱいチョコ貰ってそうだから意外だね」

「貰ってねぇよ。受け取らないで返してるからな」

つーか、プレゼント選びはどうした。
すっかり忘れているのか、興味津々の様子で大崎は質問を続ける。
俺の話なんか聞いてて楽しいのだろうか。変な奴。

「下駄箱に入ってる差出人が分からない物とかは?」

「そんなことあるかよ。漫画じゃあるまいし」

「……桜夜さんは?」

「ああ。桜夜は甘くねぇやつくれるから食ってる」

「じゃあ……来年は私もそうして耶雲君に渡そうかな」

「はぁ?」

そういうものは前もって言うものなのだろうか。

「そういうもんは、ホントに好きな奴にだけあげとけよ。女子ならまだしも、男は一人にしとけ」

「…………うん」

……なんだ、今の間は。
大崎はプレゼントのことを思い出したのか、品定めを再開した。
せっかくくれると言ってくれたものを拒んだから傷つけたかと思ったが、見た感じそんな様子は無い。
思考が錯乱する。

話の流れを浚ってみる。
大崎はバレンタインに俺に何かを渡すと言った。本当に好きなやつにあげろと言ったら肯定した。

「…………」

大崎が俺を……?いや、まさかな。

「あ、見て見て耶雲君!ひよこのマグカップ!可愛い」

黄色のマグカップに顔が描かれたそれを見せてくる大崎は、いつもと全く変わりない様子だった。

さっきの微妙な空気はなんだったんだ。
大崎ははっきり言って天然っぽいところがあるから全然分かんねぇ……

「どうかした?」

「な、なんでもねぇよ」

まさかこれが作戦か?俺を混乱させようと天然ぶって……
いや、コイツに限ってそんなことは……

大体、どうして俺はこんなに動揺してるんだ。大崎が誰を好きだろうと関係ないし、告白されたら断ればいいだけのことなのに。
断ったら……どうなるだろうか。泣くだろうか。

「あ、耶雲君耶雲君。ニワトリもあったよっ」

今の関係が壊れて、こうして笑いかけてくることもなくなるに違いない。
コイツのことだから、目も合わせてもらえなさそうだ。
それは嫌かもしれない。今まで割と女なんてどうでもいいと思っていたのに。

つーか、大崎が俺を好きだと決まったわけじゃない。
考えるだけ無駄だ。コイツの場合は特に。

「…………」

マグカップなんかではしゃぐこの姿は、一般的に可愛いと言うのだろうか。
椿木以外の奴とも、よくこうして買い物に来るのだろうか。
……俺以外の男に、こんな無防備な笑顔を見せるのだろうか。

「って、何考えてんだ、俺……」

「え?」

「い、いや、独り言っつーか、なんつーか……気にすんな」

さっきから大崎のことばっか考えすぎじゃね?俺……
変に詮索したせいだ。


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