SS:MWで学パロ
2011/12/10
終業のチャイムが鳴って、数分が経っていた。
人がまばらになった教室。
帰り支度を済ませ、鞄を手にしようとした時。
「えーいーきー君、お客さん」
クラスメイト(♂)がからかうように声を張り上げた。
聞き間違いじゃなければ、奴は今俺の名前を呼んだ。
嫌々声がした方を見る。
隣のクラスの紗陽が、控えめに胸の前で手を振った。
「またかよ……」
溜息が出る。
どうせ『一緒に帰ろう』と言い出すのは明らかなので、完全にシカトして教室を出た。
「……影悸」
パタパタと、小走りで着いてくる音がする。
「…………影悸」
懲りもせずに名を呼ぶ。応える気はさらさらない。
ひたすら無視していると、ぴたりと足音が止んだ。やっと諦めてくれたようだ。
これで、一人でゆっくり帰れる。
教室のある三階から、階段を降りていく。
下駄箱に辿り着いた時、俺は唖然とした。
「…………」
目の前には、後ろにいたはずの紗陽が息を切らして立っていた。
『何してんの』そう訊きたいけれど、呆れて言葉にならない。
そんな俺の気持ちを察してか、紗陽は言った。
「走った」
そんなことは見れば分かる。
「お前バカ?バカだろ」
「うん。クラスで下から二番目」
『ブービー賞』とピースしてみせる姿に、また言葉を無くす。
学力云々の話ではない。そこまでして俺と帰ろうとすることに対して言っているのだが、紗陽が相手だと説明するのも面倒だ。
「走ったらあったかくなった。影悸も走る?」
「なんで俺が……」
ぼけっとしているようで紗陽は頑固だ。仕方なく、一緒に帰ることにする。
靴を履き替えながら、また溜息が出た。冬真っ直中な今、吐いた息が白くなる。
紗陽は手で自分の顔を煽っていた。
外に出れば、勝手に着いてくる。腹を括った以上それを拒んだりはしない。
天気は晴れ。しかし、道端に昨晩降った雪が積もっている。
道路は所々凍っていた。当然、歩道も例外ではない。
ジャケットのポケットに手を突っ込んで、“紗陽なら転けそうだ”と考えながら歩いていると、突然腕を掴まれた。
「影悸、今のうちに雪だるま作ろ」
「嫌だ」
立ち止まることも振り返ることも、しなくて良かったと思えるどうしようもない提案だった。
そもそも、そんなものが作れるほどは積もっていない。積もっていたとしてもしないが。
「ダメ」
「…………」
ダメってなんだ、ダメって。俺に拒否権は無いのか。
しかし紗陽がこう言い出したら、もう俺に逃げ道は無いも同然だった。
「……ここで待ってるから一人でやれよ」
木の幹に体を預ける。そうすると紗陽は納得したようで、本当に一人で雪を丸め始めた。
学校のすぐ横で15にもなる学生が雪遊び……下校する同じ学校の生徒にくすくすと笑われた。
その横で立っている俺も笑い物にされていると思うと、やはり溜息が出る。
紗陽は人目を気にすることもなく、黙々と雪だるまを作っていた。
眺めていると思っていたより小さめで、少しだけ安心する。早く帰れるからだ。
周りの奴らには、俺達はどう映っているだろう。
恋人か?それとも、オッドアイのせいで身内だとバレているかもしれない。
どちらにしても迷惑だが。
「影悸、出来た」
「あっそ。ならもう帰る」
「待って。もう一個」
「はぁ?」
完成した歪な雪だるまを横に置き、また作り始める。
まさか、10個も20個も作る気じゃないだろうな。そうなったら、さすがに付き合いきれない。
晴れているとはいえ気温は低く、耐えかねた俺は一度校舎に戻った。下駄箱付近の自販機でホットココアを買う。また紗陽のいる所まで行くと、ちょうど頭を作り終えたようだった。
俺を見上げて、一々“出来た”と報告してくる。言われなくても、見れば分かる。
「今度こそ帰るよ」
「待って」
三つ目を作り出したら先に帰ってしまおう。と思ったが、紗陽は二つの雪だるまをくっつくくらいに寄せて、立ち上がった。
真っ赤になった手に息を掛けながら、寄り添うように並ぶ雪だるま達を見下ろす。
「これで……寂しくない」
ただの雪の塊を愛おしそうに見つめ、微笑む。
痛い奴、もしくは萌えキャラ。コイツの事情を何も知らなければ、そう思ったかもしれない。
幼くして両親を亡くし、孤独に敏感なのだ、紗陽は。
“だから一緒にいてやろう”という親切心は俺には無かったが、少しだけ胸の辺りが痛んだのも事実。
「……ほら、お前風邪引きやすいんだから」
首に巻いていたマフラーを紗陽の首に巻き付け、自分が飲む為に買ってきたホットココアを手渡す。
コイツの体の弱さは身を持って知っている。
紗陽は目をぱちくりさせていた。
「でも、影悸もすぐ風邪……」
「だまれ」
頬を指で摘んで喋れないようにしてやった。
確かに、悲しいことに自信が持てるくらい俺も体が弱い。が、男としてそれは恥ずかしいこと。故に、それについては放っておいてほしいのだ。
「今度こそ俺は帰る」
「あ、待って」
もう何度目の“待って”か分からない。
無視して一人家に向かって歩き出す。すると、
「私もこのくらい影悸と仲良しになれますように」
という耳を疑うような呟きが聞こえて思わず振り返った。
紗陽が携帯で雪だるまの写真を撮っていた。
「それは絶対に無い」
声を大にして言い切る。
「どうして?」
紗陽が小走りで追いかけてくる。
「俺はお前のことが嫌いだから」
「そうかな?」
紗陽は俺に追いつくと足を止め、首を傾げた。
『そうかな?』とか意味が分からない。俺の気持ちを紗陽が知っているとでも言いたいのだろうか。
「影悸優しいから、私のこと嫌いじゃないよ」
「…………」
よくよく考えれば、そう思われても仕方がない言動を取った気もしなくない。
「だから明日も一緒に帰る」
当たり前のように断言されて、返す言葉も無くす。
コイツといると、こんなことばかりだ。
もう面倒になり、返事の代わりに溜息をついて歩き出す。
紗陽が一歩後ろから着いてきていた。
「影悸、転んだら危ないから手繋ご」
「アホだろ、お前……」
こんな姉嫌だと心底思った瞬間だった。
大したオチもありません(笑
MWというタイトルすら晒したことなかったのに、衝動的に書いてしまった影悸と紗陽の話。
長すぎて、短編に上げれば良かったと思いましたorz
きっと影悸はこんなにデレたりしないだろうけど、パロディだからいいんだ……
紗陽は由乃と愛依子を遙かに凌ぐアホの子。
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