クリスマスを、君と (1/2)
※『デートの誘いはまた今度』『市長の供述』『か弱い誓い』のトリップ系小説家主
※ウォーターセブンにクリスマスが浸透しつつあるという捏造
ふと、アイスバーグは目をあけた。
掛けている布団の外側に漂う冷気に小さく息を吐いて、それから自分の傍らに温かなものがあるという事実に気が付く。
少し考えて布団の中を覗き込めば、アイスバーグの両腕の間に納まった同居人が、目を閉じてすうすうと小さく寝息を零していた。
『締め切り』だと言って、アイスバーグが寝入る時刻になっても寝室へとやってこなかった相手だ。
朝まで起きているかもしれないから、と言って頼りなく笑っていた相手にアイスバーグはエールとコーヒーを贈ることしかできなかったが、どうやらナマエは無事に敵を打倒したらしい。
アイスバーグを起こさないようにこっそりと布団にもぐりこんできただろう相手を想像して、ふ、とアイスバーグの唇に微笑みが浮かんだ。
そっと顔を寄せて、布団の中に入っている温かな相手の額に軽いキスを贈る。
布団から外に顔を出していたアイスバーグの唇が冷たかったのか、もぞりと身じろいだナマエは温もりを求めるようにアイスバーグの方へと体を寄せて、すりついてくる相手の背中をアイスバーグの掌が撫でた。
甘えるようにすり寄るなんて、意識があったなら、ナマエが絶対にしないような行動だ。
「ンマー、可愛いこった」
男相手にそう言っていいのかは分からないが、アイスバーグにとってのナマエは間違いなく『可愛い』恋人だった。
その目元の隈がなければ、もう少しちょっかいを掛けるところだ。
しかし、せっかく原稿を倒して眠りに入ったのだろうナマエを起こしてしまうのは、何とも忍びない。
仕方なく時計を確認したアイスバーグは、自分が目を覚ますべき時間まで、ただ恋人を抱きしめたままでいることにした。
※
二度寝とは、悪魔の誘惑である。
一人暮らしの頃なら大体打ち勝ってきたそれにまんまと負けてしまったアイスバーグが飛び起きたのは、普段起きる時間より少しばかり遅れた時刻だった。
設定してあったアラームが何度目かの鳴き声を零したところで、伸ばした手でアラームを切り、それからすぐさまベッドを降りる。
勢いでめくれた布団を戻そうとすると、隙間に入り込んだ冷気に身を震わせたナマエが、そっとその目を開けた。
「……アイスバーグ?」
おはよう、と声を漏らしつつ起き上がった相手に、おはよう、と答えたアイスバーグの手がクローゼットへ伸びる。
「なんだか慌ててる?」
「ああ、ちィっとばかし寝坊した」
「アイスバーグが、寝坊?」
問いに答えながら着替えを用意したアイスバーグの耳に、珍しいな、と少しばかり面白がるような声が響く。
ネクタイを掴んで見やった先のナマエはまだ少しばかりまどろんでいるようで、慌てるアイスバーグとはあまりにも対照的だ。
その両手が布団を掻き合わせてしっかりと体を覆っているのを見て、ため息を零したアイスバーグが軽く笑った。
「冬場のベッドは魔性だからな」
「ああ、分かる。寒いもんな」
着替えてる間に俺が飯作るよ、なんて優しげなことを言いながら布団の隙間から足を出してきた相手に、ベッドへと近寄ったアイスバーグの手が触れる。
軽く押しやればあまり抵抗する様子も無くその体が倒れ込み、アイスバーグ? と不思議そうな声が真下から漏れた。
「腹減ってるんなら飯は作っておくから、まず寝ろ」
確かに少々寝坊してしまったが、軽い朝食を用意する時間くらいならあるだろう。
ひどい顔してるぞ、なんて言い放ったアイスバーグの指が軽く目の下を擦ると、むずがるように眉を寄せたナマエが顔を逸らす。
嫌がる相手を追いかけたりはせずにアイスバーグが手を離すと、別に大丈夫なのに、と布団に包まれた男が声を漏らした。
「ちょっと寝たから、全然元気だ」
「あんまり睡眠時間を削ると早死にする、なんて言ってたのはどこのどいつだった?」
アイスバーグの仕事が立て込んでいた時、睡眠時間を削って持ち帰った仕事をこなしていたアイスバーグにそう言ったのは、確かに今ベッドの上に転がっている相手だったはずだ。
ベッドに転がる顔を覗き込み、アイスバーグがそっと囁く。
「おれより先に死なれるのは困る、とりあえず寝ておけ」
本心から紡いだアイスバーグの言葉に、ナマエが少しばかり目を丸くした。
それから、もぞりと身じろいだ体が縮こまり、顔もほとんどが毛布の中へと入ってしまう。
「…………わかった」
納得してくれたらしく、そう声を漏らした相手に笑って、アイスバーグは体を起こした。
見やった時計から迫る出勤時間を確認して、慌ててそのまま部屋を出ていく。
今日は寒すぎるから、ティラノサウルスも置いて行った方が良いだろう。アイスバーグの胸ポケットよりも、温かな巣材にあふれた籠の中の方が暖を取れるはずだ。
「…………相変わらず、恥ずかしいやつ」
静かになった部屋で小さく呟いた声の主がどんな顔をしていたのかなんて、アイスバーグには分からないことだった。
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