042
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 テイルとティーマ、ヴォルトとぼくの四人で、いつものようにお茶の時間を楽しんだ。
 テイルは相変らずぼくを怖がっているようだが、前よりは、ぼくの近くに寄って来るようになった。
 気になることといえば、テイルはふと、修復中の隣の部屋を覗き、ゼルダが落ちた穴をじっと見つめていることがある。
 それを、毎日何度も何度も見かけるために、気にかけるなといわれても、無理な話だ。
 どうしてなのかとティーマに聞くと、赤い髪をぶんぶん振って、「ティーマ、知らない!」と答えるだけだった。
 女の子の気持ちは、ロボットにだってわからない。
 ティーマは相変らず、毎日のお菓子の時間を楽しんでいるようだ。前のように、同じ形のクッキーやキャンディーをそれぞれ皿の上にわけて並べては、それぞれの名前をつける。ティーマのお気に入りの遊びだ。
 ティーマは、お茶に砂糖を三杯、ミルクを二杯、さらにフルーツの味がする甘いシロップを三つ入れる。
 想像するだけで吐き気がしそうだ。ティーマが溢れそうな紅茶を喜んで口にするたびに、よくさびないな、とぼくは感心した。
 ぼくは黙って無糖の紅茶を口に運び、椅子の上で小さくなっているテイルは無視して、隣に座っているヴォルトを見る。
 ヴォルトは最近ずっと、暇さえあればどこかを見つめている。
 顔を伏せて、髪で隠してはいるけれど、目が真っ赤なのはぼくの位置からは丸見えだ。どこかを透視しているか、誰かにメッセージを送っているのか……。
 ヴォルトの考えていることも、未だによくわからない。
 さて、ぼくのことだけれど。ぼくはまだ、マルシェさんに脱獄の話を持ちかけていない。
 マルシェさんだけじゃない。地下三階の人にも、実はヴォルトにもだ。
 早めに告げてしまうと、いろいろ意見を言われて、ぼく一人が混乱する気がするんだ。成功する確率が一パーセントもないっていうのに、変に期待を持たせるのも、酷だし。
 まずは、ぼくの中で作戦を練る。シミュレーションを重ね、確かな成功率を上げて、そして皆に報告する。
 今のところ、ぼくが考えた作戦は、こうだ。
 まずは、ぼくがまた故障したふりでもして、公司館内で思いっきり暴れる。
 その間にヴォルトに地下三階へ行ってもらい、ぼくの騒動に紛れて、マルシェさんたちを逃がしてもらう。
 もちろん、そこは豪快に牢屋をぶち壊してもらっていい。ぼくが、それより大きな音をたてるから。
 ぼくの力が自分の予想以上に強いことは、ゼルダとの対戦で教わった。
 ゼルダも十分強かったけれど、加減を知らないヴォルトに造られたぼくは、さらにむちゃくちゃ。バケモノだ。
 だから、この公司館ひとつ、一人で壊すことなんて、安易なこと。
 ちょっと強引な作戦だけれど、マルシェさん達を確実に逃がし、さらにお父様に大ダメージを与えるのは、これが一番だと思ったんだ……。
 ヴォルトもお父様も、さすがに最良の脱獄の方法はぼくにインプットしてくれていなかったようだ。
 ぼくがついため息をつくと、甘党ティーマにまた気づかれてしまった。
「どう、しましたか、アラン!」
 ティーマはピョンと椅子に飛び乗り、身を乗り出して、ぼくの頬をビタンと両手で挟む。
 うわぁ、お得意の詰問だ。しまった、こればっかりは、ティーマにも言えないよ。
「な、なんでもないよ」
 ぼくは精一杯なんでもない顔を装い、苦笑いをする。
 残念ながら、ぼくのごまかしはまだティーマにきいたためしがない。無理やり逃げようとすると、ティーマは逆に詰め寄ってくる。
「なん、ですか! 秘密、だめよ!」
 ティーマはムッと顔を顰め、ぼくの首を引っこ抜こうとする。見た目より強烈だ。今にもポンッと音をたてて頭が抜けそうなぐらい。
 生首をさらしてもいいから、それ以上聞かないで。ぼくはそう思いながら、ヴォルトに救助要請の視線を向けた。
 しかし、ヴォルトは相変らずむっつりと顔を顰めたまま、どこかを見つめているだけだ。
 あぁ、もうダメだ。
「ティーマ、なんでもないってば。許してよ」
 ぼくは両手を顔の横に上げ、首を横に振る。
 一瞬、ティーマは顔のパーツを中心に集めたが、ぷうっ、と大きく頬を膨らませると、ぼくから手を離した。
「ティーマ、秘密、嫌い!」
 それでも椅子に腰を下ろしながら、まだぼくに噛みついてくる。
 わかったよ。こればっかりは、言えないんだってば。
 テイルを見ると、あのけばけばしいティーカップで顔を隠すようにして、ぼくをじっと見つめていた。
 テイルも、ぼくが何を考えているのか、気になるんだろう。
 そうだろうさ、ぼくは、君たちのお父様に反乱を起こそうとしている、不良ロボットだからね。
「大丈夫だよ、必要なデータの整理をしていただけ。なんでもない」
 嘘は言っていない。ぼくはやれやれと首を横に振り、これだから女の子は、みたいな表情をわざと作った。
 ティーマもテイルも、同じようにムッとしたが、ぼくは気にしないで、紅茶をもう一口口に運んだ。
 ぼくの喉の管を通り、胸の辺りに、熱いものが滑っていく。焼けつくようだ。
 あぁ、脱獄とか、計画とか、そんなことの前に、この二人を出し抜くのが、一番難しそうだ。



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