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 それから三日間、ぼくはもう戻らないと誓ったあのラボへ、また逆戻りさせられることになった。
 しかし、前のようにお父様の怒りをかったわけではないから、公司たちが技術を総動員して修理してくれたおかげで、ぼくはすぐに普段通りの生活を始めることができた。
 もちろん、マルシェさんたちへの食料運びも再開した。
 ランスさんは、ぼくの復活を飛び回ったり、抱きついたり、ぼくをもみくちゃになるまで撫でたりして、大いに喜んでくれた。
 意外にも、無口のボルドアさんは牢屋から筋肉のついた腕を伸ばし、ぼくを抱きしめてくれた。
 相変らず、表情はなかったみたいだけれど。背中を叩く手が、「よかったな」と言ってくれているようで、ぼくはそれでも嬉しかった。
 マルシェさんは、相変らずだった。
 ぼくが「お久しぶりです」と挨拶をしに行くと、にやりと笑って、「よう」と言うだけだった。
 ぼくが居ない間も、ヴォルトがちゃんと食事を運んでくれたおかげで、皆ずいぶん健康そうだった。
 ぼくはお祝いにと、三日連続で希少なフルーツをデザートにプレゼントした。
 仮のぼくらの住まいに届いたお父様からの贈り物だったけど、まだティーマに目撃されていないからいいだろう。
 地下三階の人たちのお祝いも嬉しかったが、一番嬉しかったのは、ヴォルトのプレゼントだった。
 ぼくがラボから出てきた日、ヴォルトはぼくに小さなCD‐ROMの入ったケースを渡した。
 「これは何?」とぼくが聞くと、ヴォルトはにやっと笑って、「おまえ」とだけ答えた。
 よく見ると、透明のケースには、小さく“GX.No,5 zelda”と書いてあった。
 そう、ヴォルトは、落っこちていったゼルダの破片から、ゼルダのデータを拾ってくれたんだ。
 ぼくは、思わずヴォルトに抱きついて喜んだ。確かに、これはぼくだ!
 ぼくは今や空っぽになっている右手首に、小さなゼルダをしまっておくことにした。
 少し目つきが悪くて、少し凶暴な、もう一人のぼく。これこそ、世界にひとつしかない最終兵器じゃないか?
 前に考えた通り、この世界が平和になったら、ゼルダをまたヴォルトに造ってもらうんだ。
 幸い、それからはずっと、お父様から“お仕事”の依頼が来ることはなくなった。
 どうやら、外側の反逆者潰しと、内側の裏切り者探しで、目が回るほど忙しいらしい。
 そうそう、あの日ずいぶん悲鳴をあげた、テイルなんだけど――。
 あの日以来、ぼくを見ると、ぱっとティーマや柱の陰に隠れちゃうようになってしまった。
 確かに、あの日のぼくは自分でもゾッとするぐらい、制御不可能なただの機械だったよ。
 でも、だからって、これ見よがしに避けたり、見かけるだけで悲鳴をあげそうになったり、一日中マーシアの所にこもりっきりになること、ないだろ……。
 引きこもりぎみのテイルは置いておいて――そういえば、シオンは最近まったく姿を見せていない。
 ティーマは、ゼルダがシオンに会ったみたい、と言っていた。
 じゃあ、いいや。ぼくも会ったってことにしておこう。シオンは物静かで、話しかけても返事をしないことが多いから、ちょっと苦手なんだ。あの需要不明な長い服も気になるしね。
 さて、自由になった今、ぼくがすべきことは、何か?
 見事に不良になったぼくが思うには、地下三階の人たち、マルシェさんたちの脱獄しか、ないだろう。



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