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「おう、どうした」
 マルシェさんはのんきに鼻歌を歌いながら、今日の最後の食事の焼きたてのパンをほおばった。
「いえ……なんでも」
 ぼくは今日の分の食事を運び終えた後、冷たい石の上にうずくまり、ずっと脱獄のことを考えていた。
 ティーマやテイルのことや、脱獄の方法のこともあるけれど、マルシェさんや他の人が、ぼくの作戦に賛成してくれる希望は、少ないと思う。
 だって、こんなに単純で危険が多すぎる作戦、誰が喜んでのるもんか……。
 あぁ、以前のぼくだったら、もう少し慎重に事を進めたんだろうな。こんなに無鉄砲なバカになってしまったのは、ヴォルトが改造してくれたせいかも……。
 ぼくはプッ、と吹き出し、膝を抱いたまま、体をもぞもぞと動かした。
「笑ったり落ち込んだり、お前は忙しい奴だな」
 マルシェさんが鎖をガシャガシャいわせて、ぼくの近くへ移動する。
 手探りでパンを探し、それを豪快にひと口で詰め込む音が、ぼくのすぐそばで聞こえた。
 ――マルシェさんだったら、きっと知恵を貸してくれるのかな。
「……マルシェさん、ここから出たいですか」
 ぼくがぽつりと言った言葉に、マルシェさんは唸り声をあげた。
「あぁ、そりゃあ、出られるもんならな」
 絶対無理だが。というような言い方だ。
 ぼくは膝に顔を埋めたまま、力なく頷いた。
 あぁ、もう。ぼくの人工頭脳には、ましな考えは入っていないのだろうか。
 図体ばかり大きくても、中身が幼稚じゃあ、何の役にも立たない。
 ぼくは、本当にバカだった。実感したよ。
 いっそ、ヴォルトに知恵を借りてしまおうか……猛反対されるのを覚悟で。
「まぁ、いっそ、俺が死んだりしたら、ここから出してもらえるんだろうけどなぁ」
 マルシェさんはそう言って、今は空っぽになっている、斜め前とその隣の牢屋を見つめた。
 いつの間にか、ぼくが来たときにすでに亡くなっていた二人の遺体は、消えていた。
 マルシェさんが言うには、ぼくがラボで眠っている間に、公司が何人か来て、こそこそと持って行ったらしい。
 ぼくは二人がちゃんと葬られたのかな、なんて考えながら、「そうですね」と気のない返事をした。
 その返事に、マルシェさんはにやりとして、ミルクでパンを飲み込む。
「じゃあ、一回死んでみるか」
 ニッと笑って、マルシェさんはそう言った。



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