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止まっていたはずの爆弾のタイマーが動き出し、俺は死んだはずだった。目が覚めると、身体が縮んでしまっていた! 瞬きをして周囲を見渡す。小学生の時何度も見た教室だ。整然と並んだ机、大きな黒板と、壁には習字や絵が掲示されている。日は傾き始めて、教室を橙色に照らしていた。 俺は机に載せたランドセルを手に立っていた。下校しようとしていたのだろう。
「おい研二! どうしたんだよ、帰るんだろ!」
同級生が廊下から俺を呼んだ。こいつは「女と遊ぶなんてかっこわりい!」と俺を焚き付けてきた奴だった。奴は彼女が好きだったのかもしれないし、もしくは俺と遊びたいだけだったのかもしれない。ずっと彼女と居た俺はその言葉に衝撃を受け、男子の友人を優先するようになったのだ。 まあ、それは俺が選んだことだから恨んでなどいない。何を言われても気にせずに、ただ彼女を大切にするという選択肢だってあったのだから。 ともかくその頃の俺は、小学生になって広がった世界に翻弄されたのだ。一言で表すなら、若かった。
「なあ、公園に寄ってから帰ろうぜ」 「え、いいのかよ? もう帰るって言ってただろ」
見上げた黒板に書かれた今日の日付は俺の誕生日、彼女に嫌われる日だった。 彼女はホームルームが終わった途端早々に帰り、俺は友人とギリギリまで学校で遊んでいた。 今頃、彼女は俺のためのケーキを作っているのだろう。サプライズをするつもりだったはずだし、俺は遅れて帰った方がいいだろう。また何かの間違いでひっくり返さないとも限らないのだから。
かくして彼女を驚かして転ばせることもなく、ケーキが家の冷蔵庫に収められた後。彼女を迎えに隣家へと向かった。 俺にとって数年越しの邂逅は、彼女の訝しげな表情に固まった。そりゃそうだ、直前まで意地悪ばかりしていた相手が馴れ馴れしくしてきたら戸惑いもするだろう。 それも無邪気に知らないふりをして彼女の手を引く。 『けんちゃんなんて、だいっきらい!』 あの日以来、もう一度こんなふうに手を握れるなんて思いもしなかった。後悔なんて腐るほどした。彼女を笑顔にしたかった。嫌われたく、なかった。 だから俺は、この人生をやり直す。
「よろしくね、僕のお嫁さん!」
何の因果か与えられた、この機会を無駄になんてしてやるものか。 戻る
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