2
退院後、口八丁で言いくるめられて気がついたら同居していた。 気が合うのか息子も随分と懐いていて、お母さん嫉妬しちゃう。「好きなものが一緒だから当然だろ」と言われた。「俺がいない間、お母さんのことを守ってくれてありがとな」と息子を撫でている所を目撃してしまった。 陣平のことを「おとうさん?」と呼んだかと思えば、「あのね、お母さんはぼくのお父さんのこと大好きなんだって。だから、お父さんなの?」と続いた言葉には焦ってしまった。「っそ、そうだよ。お父さんのこと大好き!」それを聞いた陣平がニヤついているのはかなり癪だった。
萩原宅の娘さんとうちの息子は仲が良い。歳が同じで誕生日も近かったし、何より相互に協力し合って生活していたので一緒に遊ばせる機会も多かった。しかし、その二人がちゅーしているのを目撃してしまった親たちは随分とざわついたものだ。娘ちゃん曰く「パパとママがよくしてる」らしい。萩原夫婦の仲良しが影響している。
「わたしたちけっこんするのー!」 「パパは!? パパに言ってくれたことない!」 「パパにはママがいるでしょー」
パパとけっこんするのって言われたかった萩原くんは崩れ落ちていた。日常的にキスしてると友人夫婦に知られた奥さんの方は赤くなってうずくまっているし死屍累々だ。当の子供たちはぽやぽやとお花を飛ばしているような雰囲気なのにね。後日第二子妊娠報告を受けた。仲良しで何よりです。
最近陣平がやたらそわそわしていると思ったら、萩原夫婦の気遣いにより二人きりのデートをすることになった。結婚したら二人でデートはなかなかできないから、と。少し前に二人の子供を私が預かってデートさせたこともあったりしたので、そのお礼だという。まあ確かに、息子も一緒に寝ているから、そういう……そういう雰囲気にもならないし。
ひとしきり楽しんで、最後に観覧車に乗ることになった。前回彼が入院した原因の事件って観覧車だったって聞いたけど、と問えば苦笑いが返ってきた。
「いい思い出が無いから、あえて。お前と乗ったら上書きできるだろ」
転ぶなよ、と手を自然に引かれてゴンドラに乗り込む。ゆっくりと地面から離れていき、景色を楽しむ間もなく陣平からキスをされた。ほんの少し触れて、離れてじっと見つめられる。あ、逃げられない。そう思った瞬間に、後頭部に手を回されて引き寄せられた。指先でうなじをすり、と撫でられる。 久しぶりにこの体温に触れた。唇が重なっているだけなのに、熱くて、温かくて、「いとしい」と伝えてくるような。このキス一つだけで、もうたまらない気持ちになってしまった。 唇が離れて、私の顔を見た陣平の瞳がどろりと欲で濁った。
「私、どんな顔してる?」 「もっと、って顏だろ」
唇が弧を描いて、今度は深く食べられた。差し込まれた舌になぞられて絡まって吸われて、じっくりとなぶるようにキスをされた。四年分の欲をぶつけてくるようなそれに頭がぼうっとする。
「っ、あ、……ふ、んぅ」
ふと唇を離されたかと思えば、「こっち来い」と手を引かれて彼の膝の上に乗せられる。向かい合わせで、私の開いた両脚の間に陣平がいる。腰を引き寄せられると脚がもっと開いてしまうから、スカートがめくれて下着が見えてしまいそうだ。
「ね、じ、んっ……これ、恥ずかしい……」
名前を呼ぼうとしたのに口を塞がれる。やっと解放されて息も絶え絶えにつぶやいたら、「だろうな」と愉しそうに目を細めて、また唇を塞がれた。同時に、腰に回された手で抱き寄せられて身体がさらに密着する。
「……ん、ぅ」
その拍子に、局部に硬いものが押し付けられた。
「あ、っん」
びくりと身体が震えてしまう。こんなところで、陣平が私に興奮している。そう伝えられて、身体の中心がきゅんとして蜜をあふれさせた。押し付けられるカタチを確かめるように、わずかな快感を追って腰を揺らしてしまう。
しかし、夢中で重ねていた唇はほどなくして離された。膝の上からも下ろされて、すっと目を逸らされる。
「……降りるまでに、その顔どうにかしとけよ」
そう言われて周囲を見れば、ゴンドラが後半に差し掛かっていた。確かにこれ以上を此処でするのはまずい。……けど、こんな状態にさせておいて放置するなんてひどいと思う。 向かいの席に座って、窓の淵に頬杖を突き外を向いている。その後頭部を恨めしく睨み付けた。まあ、その股座にテントを張っているのに気付いたから少し溜飲が下がったけど。 戻る
|
|