れーくんの好きな人 3


「降谷さんはあの人をどうしたいんだ? なんか、記憶が戻ってほしい、って感じではねえよな」

ふと問いかけられる。探偵の彼は人の変化に敏い。

「ねえさんの記憶が戻ってほしいのか……僕にもわからない。記憶が戻って、僕が傷つけたことも思い出して拒絶されたら。嫌いって言われたら……そう思うと、盲目的に受け入れて愛してくれる今の方がいいのかもしれない、と考えてしまうんだ」
「工藤くん、そこのバカは放っておきなさい」

冷たい声が僕の言葉を遮る。顔をあげると、苛立ちに燃える瞳が僕を睨み付けていた。

「あの子が一度でもあなたに嫌いって言ったの? 嫌いになった人間の子供を産みたがるほどあの子は優しくない。自分のことを覚えていないあなたの傍にいるのが辛くて苦しくても、あの子は産むのを一度も迷わなかったわ。あなたの子だから私が守らないとって。それなのにあなたは自分のことばっかり! あなたを切り捨ててでもあなたの子を守ろうとしたあの子とは大違いだわ! 自分の子だから守るんじゃない、他でもないあなたの子だからって、……そういう人だって、わかってたはずじゃない」

強く吐き捨てるように叫んで、言葉尻は諦めるように小さく萎む。
ずっと、そうだった。優先順位は僕が一番と、あとはその他。それはあの人自身もその他に振られていた。

「……あなただって気付いてるでしょ? あの子、自分が過去から来たと思い込んでるの。知らない場所で帰れるかもわからないストレスを感じながら、自分の身体の変化だって気付いてるはずよ。……時間が経つほどに、今だって」

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