れーくんの好きな人 2
ふと、夜中に目が覚めた。隣に彼女がいないと深く眠れない。
記憶喪失の彼女とは別の部屋で寝ていた。いい歳した甥と叔母が同じベッドで寝ているなんて知ったら混乱させてしまうかもしれないからだ。本当は、結婚しているんだけど。 リビングから音がすることに気が付いた。人の話し声……いや、テレビの音だ。薄く光が漏れる部屋へ向かう。扉を開けると、ぼんやりと画面を見つめている彼女がいた。真剣に見入っている風でもなく、ただつけているだけのようだった。僕の気配に気づいたのか振り向く。
「ごめんね、起こしちゃった?」 「ううん、大丈夫だよ。ホットミルクでも飲む?」 「ありがとう、れーくん」
少しだけ蜂蜜を混ぜてマグカップに注ぐ。受け取った彼女は一口飲み、ほぅ、と息をついた。
「……どうかしたの?」
そう問えば、ねえさんはぎこちなく笑った。
「眠れなくて」
こっちに来てから、あんまり眠れてないんだ。居心地悪そうに、カリ、とカップを爪先でひっかく。
「一緒に、寝る?」
提案した声は震えていなかっただろうか。僕の声に彼女は顔をあげた。
「いいの?」 「僕が小さい頃もお泊りの日はよく一緒に寝てたんだ」 嘘はついていない。
「それなら、いいのかなあ」
器の底にぬるく残ったミルクを飲み干して、片付けをする。ベッドに入り、掛布団を拡げて招き入れる。さえた目でテレビを見ていたとは思えないくらい、あっさりと眠りについたようだった。向かい合ったまま彼女の頬に触れる。こんなふうに触れたのは随分と久しぶりな気がした。隣に彼女の体温を感じながら僕も瞼を下ろす。
その夜は、不思議とよく眠れた。
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