沖矢さんに痴態がバレそう


借りたDVD、期限いつまでだっけと思ってたら今日までだ。幸いお酒は飲んでないし、ちょっと歩くだけだ。時間外ポストに入れにいこう。
以前1日遅れて返却したら延滞金が借りたときの倍かかったのだ。私は学習した。ちゃっちゃと返しに行こう。
DVDは結局見れていないけど仕方ない。そもそも借りるのが3回目のアニメなので問題が無いと言えば無い。そんなに何度も借りるならいっそ買えばいい? 名案だなそうしようか。
ちなみにこのアニメは、亡き父親が怪盗だったと知った主人公がその後を継ぎ、父親の影を追い続けるといった内容だ。主人公しんどい。えっ、どこかで聞いたことがある? ハハハそんなわけがないでしょう現実でこんなしんどいことがあるはずがない。彼は高校生ですよ? むり……高校生主人公つらたん……

さて、気を取り直してDVDを返却しに行こう。
今日の私は休日で悠々自適と過ごしていた。仕事着はクリーニングに出したし、服もほとんど洗濯して先ほど干したところだ。ゆったりと湯船に浸かり、髪を乾かして寝間着を着たところで未返却のDVDに気付いたのだ。服を着替えて軽く顔を整えればいつでも外に出られる。

そう思って箪笥を開けたのだ。


やっっっべ、ズボン無い。


スカートならあるのかと言えば無論スカートも無い。下半身に穿けるものがパンツと有色のタイツしかない。
洗濯しちゃったよほぼ全部!

いや、今の寝間着にコートを着れば誤魔化せるのではないか?
自分の格好を見下ろす。
赤のチェックの、ゆったりとしたパジャマだ。
どこからどうみてもパジャマだ。コートを着たって脚はパジャマだ。これで外に出れようもない。
パジャマは却下。

箪笥とにらめっこして考える。
……タイツとコートならいけるのではないか?
上半身に着るものはある。先日セールで買ったふわふわのトップスだ。女子力が上がると思って買った。これからするのは女子力とか言ってる人間がする諸行ではないが。
トップスと、膝まで隠れるコート、厚手で黒のタイツ。
合わせて鏡で確認する。……うん、コートで隠れてミニスカートやショートパンツを穿いているように見える。見ようによっては痴女みたいだとか考えないようにする。私はミニスカートやショートパンツを穿いている、コートで見えないだけ、いいね?

タイツに決定!

時計はレンタル店の営業時間外を指している。今なら知り合いに会うはずもない。
サッと行って、DVDを返却ポストを突っ込んで、サッと帰る。それだけだ。コンビニで買い物もできないけど他人に会わないことを前提にこの格好で行ってしまおう。



無事にレンタル店にたどり着き、返却ポストに投函する。店の明かりは消えていたが、外のライトはまだついていた。ひとまず目的達成だ!
返却ポストの横にジュースとアイスの自販機が並んでいた。アイスくらいは……買っちゃっても大丈夫だよね……? こんな時間にアイス、太るよとか言わないでくれ。むしろ帰ってからお酒を呑もうと思っていたから今更である。そのぶん運動すれば大丈夫! 筋肉は私の味方!

「おや、なまえさん」
「え」

名前を呼ばれて振り返れば沖矢さんがいた。筋肉は味方だけど、運は私の味方をしてくれなかったよ……。
コートで隠れるから大丈夫、と自分に言い聞かせて、平然とした顔で受け答えする。

「こんな時間にお一人ですか?」
「ええまあ、ちょっとDVDの返却に。沖矢さんは?」
「少しコーヒーが飲みたくなってしまって」

そう言って、私がアイスを買った隣の自販機にお金を入れた。ピッ、ガタン、ピッ、ガタン。あれっ、2つ買ってる?

「どうぞ」
「えっ?」
「この寒空の下、アイスを食べてしまっては体を冷やしてしまうでしょう。差し上げます」
「いえっ、大丈夫です! もう帰るとこですし」
「では、間違えて買ってしまったので貰ってください」
「……ありがとうございます」

差し出されたのはミニペットボトルのお茶。手の中に握り込まされて受け取るしかない。両手が、じわりと温かい。冷たいアイスはコートのポケットに入れた。

「良ければ送っていきますよ」
「いえっ、大丈夫ですよ! 近いですし!」
「……まさか歩いて帰るんですか? お迎えがあるとか? それかタクシーですか?」
「え、ええ歩いて……」
「こんな夜中に、女性の貴女が、歩いて、帰ると言うんですか?」

訝しむ視線におずおずと頷けば、一言一言強調して尋ねてきた。言われてみればちょっと危ないのかな、いやでも延滞金高いし……。

「いけません。このまま貴女を一人にして何かあったらどうするんですか。……あまり、心配をかけさせないでください」

きゅっと胸が鳴った気がする。沖矢さんが私のことを心配してくれてる……? なんということだろう。
そしてそのまま沖矢さんの車までエスコートされた。

「どうぞ使ってください。脚が寒そうで見ていられません」

後部座席から沖矢さんが取り出したのは柔らかな膝掛けだった。ありがたく頂戴して助手席におさまる。
走り出した車は私の家の反対方向へ向かっていた。

「沖矢さん、こっちじゃ……」
「今日は素敵な格好をしていますね」

時が止まったみたいに声が出なくなる。それなのに外の情景は動いていて、この方向だと確か、沖矢さんの住んでる家に。

「な、なんのことですか?」
「見えてしまったんです。自販機のアイスを取るときに、屈んでいたでしょう」

車が停まる。顔を上げれば豪邸みたいな工藤さんの家だった。沖矢さんが、住んでる所。
膝掛けの下に手を潜り込ませた沖矢さんはタイツ越しに太腿を撫でてくる。

「下、穿いていませんよね?」

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