私はこれから、この人に抱かれてしまうんだ。
ああ、私はこれから、この人に抱かれてしまうんだ。 いつも寝起きしている自分のベッド。その上に優しく横たえられた。 目の前には付き合って暫くの彼氏がいる。彼の膝が私の脚を割ってベッドに体重をかけ、ぎしりとスプリングが音をたてた。 これからする行為を想像して、顔が熱くなる。こちらを気遣うような視線を辿れば、私の手は少し震えていた。 そうだ、怖くもある。処女なんだから仕方ないだろう。だけど今更、嫌ですなんて言えなくて、……やめてほしくなくて。純潔を失う怖さはあったけれど、この先をどうしようもなく期待している。 震えを誤魔化すように、彼の白いシャツをぎゅっと握った。
付き合い始めてから半年。私は漸く数回目のおうちデートにこぎ着けた。彼氏である風見裕也その人は忙しい人で、数週間会えないだとか、デートの予定が潰れてしまうこともざらだった。それでも会えるだけで嬉しい。そう思えるのは、会えなかったぶんだけ、好意を言葉で行動で伝えてくれるからだ。 デートの待ち合わせ場所に来たと思えば、甘くとろけるようにその瞳が私を見つめる。その大きい手で私の頭を優しく撫でて、言うのだ。「すまない、仕事が入ってしまった」。そう、これは会えただけ良い例だ。もちろん、デートの数日前にキャンセルになることの方が圧倒的に多い。そのぶんは次に会えたとき、どろどろに甘やかしてくれるから不満を感じたことはない。 さて、随分と話がそれてしまったが、おうちデートである。彼は仕事上、外よりも室内の方がデートに応じてくれやすい。細かいことは知らないけれど、目立った行動はしない方がいいのだろう。 私の家に招くこと数回。ちなみにキスは済ませてある。前回のデート、この場合の前回とはドタキャンも無く中断もされなかったデートのこと、尚既に一ヶ月前のことである。前回のデートで初めて舌を入れられた。ソファーに隣り合って座り、膝の上に置いた手に手を重ねられて、私の口内をゆっくりと蹂躙する彼。触れるだけのキスをするときは眼鏡のフレームがヒヤリと冷たい。深いキスをするときは眼鏡を外すのだと身をもって知った。つまりは、彼がメガネを外したら、気持ちの良いキスが始まる合図だと覚えてしまった。 彼と付き合い初めて半年、半年だ。いくら会える機会が少なく亀の歩みだとしても、そろそろ、次の段階に行っても良いと思うのだ。大人同士の付き合いで、そういうことがあるのは知識として知っている。但し問題は、私が処女ということ。 男を誘うような文句などわからない。やったこともない。けれど、数回目に自室に招いた彼氏に、やらねばならない。覚悟を決めろ、私。
彼の眼鏡を両手を使って外す。緊張で喉が渇くようで、ごくりと鳴った。少し驚いたように目を見開いた彼は、すぐに柔らかく目を細める。ふ、と笑うように口許を弛ませて、近付く私の唇を受け入れる。髪を撫で下ろすように頬に添えられた手は、指先で私の耳元を擽る。それだけで少しだけ背が震えた。 キスするためにぷるぷるに手入れした私の唇と、カサついた彼の唇が触れ合う。重ねて、離してを繰り返し、今回は私から彼の唇を舐めた。私の口内から連れ出すように舌を絡ませられ、じゅ、と吸われる。お互いの唇を味わうようにねぶり、含み、絡ませ合う。一頻りそうした後、私は彼の肩を押して唇を離した。 「あの、裕也さん、……しませんか」 ちらり、と視線をベッドの方へ向け、精一杯のお誘いをする。 「うわっ!?」 背と膝裏に腕を回され、抱えあげられた。慌てて彼の首にしがみつく。彼の足はベッドへ向かっていた。 そして冒頭へ戻る。 「……いいのか?」 私に覆い被さる彼。伺いをたてる言葉とは裏腹に、逃がさないように太腿に跨がっている。おまけに膝が脚の間に置かれているので、閉じることも出来ない。 こちらをじっと見つめるその瞳の中に、情欲の色を見つけた私は、ぐっと頷く。 彼のものになってしまいたい。彼のものにして欲しい。その気持ちを込めて、もう一度、彼に口づけた。
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