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研二くんからの接触が少しずつエスカレートしている事に気付いている。 宿題が終わるたびに毎日。最初の頃は犬がじゃれるような他愛ないものだった行為が、性愛の滲むようになっていた。 私は以前のように別の人と結ばれるべき人間なのに。こんなこと、夫への裏切り行為だ。そしてそれは、今私を好いてくれている研二くんの気持ちも裏切ることになる。 私は将来、あの人と結婚しなくちゃいけないの。そうでなくてはいけないの。前と同じ人生を歩んでいかなければならないの。 ……それなのに、研二くんが私を呼ぶ声を。触れる手を、重なる唇を。拒絶することが出来なくなっている。 矛盾した心に何度も足が止まった。私が知らない未来に進んでいくことが怖い。 本当に前の夫と生きる道を選ぶのなら、幼い日に回帰した時にケーキを作る手を止めてしまえばよかったのだ。仲直りのケーキなんか、作らなければよかったのに。
ケーキを誰に食べてほしかったのか。 それを思い出してしまったから、私は今もお菓子を作り続けている。 戻る
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