「一緒に帰ろ!」
「……っ」

女の子の友達と教室を出ようとしていたら、幼なじみに手を繋がれた。

「な、なんで……?」
「なんでってそりゃ、君と一緒にいたいから。……俺と帰るの、嫌?」

私の曇った表情を見て、彼が問いかけてくる。
前は、私が一緒に帰ろうって言っても断られてたから、今日もそのつもりだった。でももういじわるしないって言ってたし……。それに「やっぱり嫌われちゃったのかな……」としょんぼりするのを見たら断れない。どさくさに手を握られる。

「嫌じゃないけど…」

今朝、登校する時も同じようなやり取りをした。私の返答にパッと笑顔になる。

「それならいいよね! じゃあなお前ら!」
「研二!」

クラスの男の子の一人が、彼の名前を呼んだ。彼とよく遊んでいた子が、私をキッと睨みつけていた。

「女と遊ぶなんて……!」
「かっこわるくねぇよ」

彼は毅然と言葉を返した。繋いだ手が、決意を込めるかのように強く握られる。

「好きな女の子を大事にするのはかっこわるいことじゃねぇ」

その横顔に胸が鳴った。まるで大人の男の人みたいな、凛々しい表情。しかも、好きな女の子って、わ、私のことだった。

そう思ったのもつかの間、彼はニッと笑って手を振った。年相応の男の子の笑顔だ。

「安心しろよ! 誰と遊んだって友達だ! また明日遊ぼうぜ!」

行こ、と手を引かれて歩き出した。



ランドセルを背負ったまま彼の部屋に上がる。

「よかったの?」
「いーの、あいつらとは学校で一緒にいるし。それより、今は君と一緒に居たいからさ」

ね、と悪戯っぽく笑いかけられる。こういうところがずるい。まっすぐに好意を向けられて、嫌な気分になるわけが無いのだ。

「何して遊ぼっか?」
「宿題終わってからね」
「うん!」

ローテーブルに漢字ドリルを拡げて着々と進める。

「ねえねえ」
「うん?」

漢字を鉛筆でなぞりながら生返事をする。

「またけんちゃんって呼んでくれないの?」
「んー……」

少しだけ渋る。幼い頃の呼び方だから、ちょっと恥ずかしいのだ。

「……けんじくん、とか、だめ?」

ドリルからちらりと視線を上げると、みるみるうちに喜色に染まる表情が見えた。

「いいよ! うん、すっごく嬉しい!」
「んむっ」

がばっ! と抱きついてきたかと思えば唇を重ねてきた。そのままちゅ、ちゅ、と何度も口付けられる。

「だ、だから宿題……っ!」
「うん、宿題終わったら、ね!」

あれかな、喜んで飛び掛ってくるワンちゃん。それも大型犬。
小学生だからまだキスのこともよく分かってないんだろうなぁ。でも私も一応子どもの振りしてなきゃいけないから、懇懇と性教育する訳にもいかないし。
これだけ嬉しそうにしているのに、駄目、と強く拒絶もしにくい。それに、……こんなことをされても、全く嫌悪感が湧かないのだから困ってしまう。

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