以前の夫は高校の時の同級生だった。

「おかえりなさい!」
「ただいま、今日は何をして過ごしたの?」
「ちょっと家事をしてから、お義母さんとランチして、ショッピングモールでお買い物して帰ってきたよ」
「そうか。ご飯はできてる?」
「もちろん!」
「これ、好きだろ? 買ってきたから一緒に食べような」
「わ、駅前の? 嬉しい!」

仕事から帰ってきたその人をいつものように出迎える。ぎゅっと抱きついて、笑みを交わし合う。

「あとね、クッキー焼いたの。お義母さんも喜んでくれたよ」
「本当に? よかった。けど、あまり驚かさないでくれよ」
「へへ、びっくりした?」
「とても。君の作ったお菓子はどれも美味しいから嬉しいよ」

恙無い夫婦生活。燃えるような恋をしたわけじゃないけど、穏やかな愛があった。優しい彼のことを赤い糸で結ばれた運命の相手だと信じて疑わなかった。




「研二くん来てるわよ! 早く起きなさい」
「……はあい」

過去のことを夢に見ると、ずいぶんと寝起きが悪くなるようだ。眠い目を擦ってベッドから降りた。
私には、逆行する直前の記憶が無い。最後に何をしていたのか、どこに居たのか、時期すらも思い出せないのだ。きっと、いつものように夫を迎えていたのだろうと思うけれど。

「おはよう! 一緒に学校行こ!」

煌びやかな笑顔の幼なじみが玄関で待ち構えている。
逆行して一週間もする頃には、これが夢でないことくらいは理解していた。だからこそ、不思議で仕方がないのだ。
どうして私はここにいるんだろう。

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