「うぇっ、うわ…!なん」「暴れたりしたら落ちっから」そう前置きした彼は私を抱え上げて飛び上がった。木の枝から木の枝へ、私を抱えたまま移動する様はさながら忍者のようだった。

「うわぁ、落ちっ、おろして」

「ししし。落ちねーっつの」

「ひいい!!」

「ンな怖ぇならもっと王子に掴まっとけば」

ぎゅうっ
「………何お前ほんとにくっついてんの離せ」

「えええ…」

「ししし!あと意外に胸あんね」

「!!!、うきゃ」

「あっぶねー。次暴れたら殺すから」

こうして暴れる事も下ろしてもらうことも叶わず、私は大人しく彼に運ばれていった。


「…重く、ないの?」

「フツーじゃね」

フツーだとしても人ひとり抱えながらこんなにひょいひょいジャンプできるものだろうか。…人間やる気になれば何でもできるらしい。私はチャレンジしないけど。

「あの…王子様」

「ん?」

「いま、どこに向かって」

「お前んち」

やっぱり。

「や、やだ、王子様、わたし家に帰りたくないです」

「その年で家出かよ」

「ちっ、ちがくて」

「でもダメー。ボスの命令は絶対だし」

「あ、そそそうだ王子様…!わたしポッキー持ってるよ」

「俺王室御用達しか食わねーから」

「えええ」

「つーか王子食いもんで釣るとかお前バカ?」

帰ったらきっとあの人がいる。会いたくない。逃げるなと言われたのに逃げたからきっと凄く怒ってるはずだ。人類滅亡寸前みたいな顔をしているだろう私を見て、王子様は仕方なさげに口を開いた。

「殺されねーからビビんなって」

「…え?」

「てかむしろ」

「?」

「…まーいいや。どうせ後から説明されんだろうし」

自己完結した王子様。もう景色は見慣れたものになってきた。屋根から屋根へ飛び移るのにも慣れてきて、諦めたように空を見上げると一番星がきらりと光った。

「ししし。めちゃくちゃアホ面」

「なっ」

「あーそれと俺、ベルフェゴールっての。ベルでいいよ」

「わ、わかった」

「お前は?」

こうして私はベルフェゴール改めベルと仲よくなった。うそ、仲良くはなってない。でもとりあえず自己紹介は済んだのである。

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