「ボスー、連れてきたよー」

…ついに到着してしまった。私は生唾を飲み込み玄関に立ち尽くす。先に上がってしまったベルがリビングに姿を消したのを良い事に再び逃亡を図ろうとすると、扉にナイフが数本突き刺さった。ベルの姿はない。ナイフはカーブ機能搭載なのだろうか。
私は諦めて靴を脱ぎ、そろりと部屋の中を覗く。直ぐに顔を引っ込めた。

――いらっしゃった…!!!


何故か天井の穴は塞がれており、床も見違えるくらい綺麗になっていたのだが、うちで一番高いソファに我が物顔で腰かけグラスを傾けているその人は、最早間違い様もなくあの男の人だった。

「ししし!何かたまってんだよ」

「うぇ!?」

「早く来いって」

何故かうちの冷蔵庫を勝手にあけてファンタを取り出したベルが、リモコン片手に呼ばわった。当たり前のようにテレビの前を陣取って座っている。あれ?ここうちだよね?

「おい」

「ひい!」

「……来い」

私はびくびくと怯えながらその人に近付く。怒っているのだろうか。怒っているんだろうな。近寄った瞬間バシッ…いやむしろドゴッ!って殴られるに違いない!
でも私は断るほどの勇気を持ち合わせていなかった。

「何泣いてやがる」

「なぐ、なぐらないで」

「あ?」

「なーボス?そいつ超泣き虫じゃね?殺っとく?」

「うあぁあん」

「ししっしし!ジョーダンだって」

「……めんどくせぇ、泣かせんじゃねぇ」

「イデ」

長いおみ足でベルの頭を蹴った男の人は、顎で座れと促した。
私がそろりと近寄って正座をしかけると「……そこじゃねぇブチ殺すぞ」だって。隣に座れという事らしい。私は言われた通りその人の脇に腰かけた。無言。無言。人ひとり分離れた距離からヒシヒシと伝わってくる威圧感。たまに視線。
助けてくれと念じても、四角い箱の中の住人達は談笑を繰り広げているばかり。


「う"お"ぉ"ぉ"ぉおい!!!」


あんまりの大音量に飛び上がって驚く。私の心臓を止めかけた人物は、我が家の庭(沢田くんち寄り)から現れた。

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