逃げ惑う私と追い掛け回す自称王子様。なんてシュールな絵だろうか。

「なあ、王子そろそろ飽きてきたんだけど」

「うわあ!あ、あぶない」

「つーか避けんなよ」

アホか!避けなかったら刺さるじゃないか!言ってる傍からびゅんびゅん飛んでくるナイフを屈んだり曲がったりしながら避ける。最近運動不足だったから、筋肉が悲鳴を上げている。

そしてとうとう限界は来た。

がくっと膝が曲がり、よろけた拍子に木の根っこに躓いてしまったのだ。猛スピードで疾走していた私の体は浮き、所々雑草の生えた剥き出しの地面に全身で盛大な着地。顔を守ろうと突き出した手のひらと、膝小僧がビリビリ痛い。


「……大丈夫?」

さっきから私を追っかけまわしていた王子様は沈黙の末にそう呟いた。
「ダッセー!」とか「今がチャンスだ死ねー」なんて言われた方がまだましだ。だってこんな惨めな時に降り注ぐ優しさってとっても胸が熱くなるから。胸というか目頭だけど。


「早く起きろよ。それとも何?まだやんの」


もう逃げるのは諦めた。私はしょんぼり俯きながら体を起こす。ショートパンツに黒のパーカーというOFFスタイルで家を出てきてしまったのが間違いだった。汚れはあまり目立たないけど、それより

「しししっ、血ィ出てんじゃん」

「う…!」

「何お前。何こんくらいで泣きそうんなってんの」

「こ、こんくらいて」

あなたが追いかけるから転んだんでしょーが!根本的原因の人が何でしれっと笑ってるんだ。私は膝小僧の傷口にフーフーと息を吹きかけながらまた泣きそうになった。(これ以上人前で泣いてたまるか!)

「何それ。意味あんの?」

「き…傷を乾かすんです」

「拭けばよくね?」

「は?ふ、っぎゃああー!!」

自称王子様、自分のコートの袖で私の膝小僧をごしごしと擦った。私はまた泣いてしまった。

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