私は二階に駆け登ってバックを取り出すと、中に入っていた教科書類を全部出して必要最低限のあれそれを詰め込んだ。机の中に入っていたおやつのポッキーも入れた。携帯お財布を確認して階段を下りる。リビングは先程と変わらぬ大参事だったが、あの人の姿はまだない。


私は裏の勝手口からそうっと抜け出した。ほとぼりが冷めるまで姿を隠そう。バックを抱いて走る。後ろを確認しながら、得も知れぬ影に怯えながら、夕焼けに染まった道を駆けた。

「…どうしよう」


あの人たちは沢田君と知り合いのようだったから、沢田君の家に隠れるわけにはいかない。だったら他に誰か…。おばあちゃんの家は遠いから無理として、友達の家にこんな厄介事を運び込むわけにもいかない。
――ああ、雲雀君はどうだろう。そこまで仲良くはないけど土下座してお願いすれば一日くらい…だめか。だめだよね。雲雀君なら強いから心配なさそうかも、とか思っていた私最低だ。相手は拳銃持ってるのに。


私はベンチに腰を下ろした。もう随分遠くまで来たな。足が速かったのだけが幸いだ。
――ッカカカ

すぐ後ろにあった木が不自然な音を立てた。見てみると、均等幅で木に刺さっている銀色のナイフ。背中を嫌な汗が伝い、私はベンチから腰を浮かせた。

「標的見っけー…ししっ」

悦を含んだ笑い声に続きどこからか姿を現したのは、ボーダーのシャツを着た金髪にティアラを乗せた青年だった。彼の身に着けている黒いコートに激しく既視感を覚え、私は警戒心を剥き出して尋ねた。

「だ…誰…!」

「オレ?王子に決まってんじゃん」

「おう、うわ!」

頬をナイフがかすめる。やっぱり、この人もあの人の仲間なんだ。私はベンチを乗り越えて林の中に駆け出した。

「鬼ごっこだーいすき」

「うわわ、ひゃ、」

「そのスピードじゃすぐ捕まえられんだけど。そんでおまえ、捕まったらさ」
ひゅっ

「サボテン、かもね」

「っ」

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