「ザンザスさん、私を守ってください」


そう言った私を、ザンザスさんは少しだけ目を見開いて見つめていた。

「私が囮をやります」

「なまえ!?」

「何言ってんだお前!!」

「絶対に許しませんよ。絶対に」

「(あ、むくろ君いたんだ)で、でもきっと、そうするのが一番早い……と思うんです」


これだけ探してここに何もないなら、きっと敵はもう別の場所に移ってしまっているのだろう。
ということは、あのホテルだって場所は知られてしまってるに違いない。

「……悪くねぇ」

ザンザスさんの言葉に、リボーン君も頷く。

「なまえ」
今までことの成り行きを窺っていたスクアーロさんが傍に膝をつき、私の肩を掴んで目線を合わせた。

「こっちは敵の規模も、戦闘方法もまるで知らねぇ」

「は、はい」

「もしお前を囮に使うんだったら、お前になるたけむこうの情報を聞き出してもらう必要がある」

「承知、してます!」

「出来んのかぁ」

正直、分からない。
でも……

「……っやります!」

スクアーロさんが私の頭に手を乗せる。にっと、力強い目で頷かれて嬉しくなった。

「いい度きょゴファッ!!!」

「………ハッ、いい度胸だ。ガキ」

「(蹴り飛ばした上に台詞とった…!!)」

「しししっ!ビビりのなまえが一皮むけたな」

ベルに頭をわしゃわしゃと撫でられる。

「……なまえ。」

「むくろ君」

「君がその覚悟なら、僕も協力しなければいけませんね。マフィアに手を貸すなんて心底不本意ですが……君のためだ」

「、ありがとう!」

「僕が幻覚でザンザスの姿を隠しましょう。同じ部屋のすぐ傍にいれば、何かあったとき対処しやすいでしょうから」

すごい、むくろ君はそんなことができるんだ。
感心していると、彼の様子が少しだけおかしいことに気が付いた。ひどく具合が悪そうだ。

「むくろ君……大丈夫?どうしたの?」

「外に出すぎたせいですかね」

「骸」

「分かってますよ、沢田綱吉。………暫くは体力を温存しておきましょう。なまえ」

「わ、ぐえっ」

昼間と同じように頬に唇を寄せられるが、すんでのところでザンザスさんに襟首を引かれ、引き戻された。

「……クフフ、随分と独占欲の強いナイトですね」


手強そうだ。

呟いてすぐ、むくろ君の体がぐらりと傾いだ。

「おっと」

武くんがその体を支えた時、むくろ君は、女の子の姿になっていた。うん、最早キャパオーバーだ。考えるの一旦やめようと思う。

「なまえ」

「はぇ?……わあ!!」

リボーン君がおもむろに放り投げたものをキャッチする。ずっしりとした重さに、それがオモチャでないことが分かった。

「念のため持っとけ。何があるか分からねぇ」

「じゅっ、じゅ、…!!!」

「………てめぇがそれを使うことはねぇ」


ザンザスさんはそう言って踵を返した。
その横顔はどことなく機嫌が良さそうで……。

「よし……!」

泣かないことだけ心がけろと言われたあの日から、私は初めて一歩前進できた気がした。

top
×