「え………痕跡がないって、それ本当?リボーン」

「ああ」

難しい顔をしたリボーン君が頷いた。

「あの後すぐに骸がこの家を調べたんだが、幻術をかけた痕跡は見当たらなかったそうだ」

ここへ来るまでに、その幻術のことをかいつまんで説明してもらった。
つまり、その場に実態がなくとも、その効果があれば私や周りの意識を操り、自在に動かせる可能性が出てくるのだそうだ。


「じゃあ、まだなまえを狙ってる奴等が誰なのか分からない……ってこと?」

「ああ。……俺たちが追ってるのは影ばかりだ」

「くそっ、どうにかなんねえのかよ!」

隼人くんの憤る声を聞きながら、私は改めて家の中を見回した。

段ボールに無造作に詰められた雑貨。

位置の変わった家具。

目に見えない影の尻尾を掴もうと、何かが隠してありそうな場所は全て空っぽにして封じられてしまった。



「なまえ?」

私は、壁に寄りかかって瞑目していたザンザスさんの前に立った。
彼の瞼がうっすらと開き、赤い目が私を捉える。


「ザンザスさん」


これまでに私の胸に沸くことのなかった怒りの波が、静かに、ふつふつと、頭の中に流れ込んでくるようだった。

これ以上、私の大切な場所を、脅かされてたまるか。


「わたしを、守ってください」

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