「むくろ君とは小さいときに一緒に住んでたの」

私がそう言うと、その場に居合わせた彼らは驚愕の表情を浮かべた。

「あ、でもずっとじゃないよ!たしか二週間くらい……。お父さんの知り合いが遠出をするのに、少しだけ預かったって言ってたから」

「まあそういうことです」

むくろ君は私の手をとって立ち上がった。
すらりと背が伸びた彼は、どこか昔の面影を残しつつ、それでもまるで私の知らない人のような気がした。

「む…むくろ君も、マフィアだったの?」

私の問いかけに、やわらかかった彼の表情が突然険しくなる。

「あんな連中と一緒にしないでいただきたい」

それはまるで、その存在を憎んで仕方がないというような。(でも、あんな連中ってことは、ツナくん達と何かあったわけじゃないのかな)


「ご、ごめんなさい……むくろ君」

「………いえ、僕こそ、すみません。なまえは何も悪くないのに」

むくろ君の目に優しい色が滲む。
私はほっと胸を撫で下ろした。ところで、耳たぶをぎゅっと摘ままれる。

「二人の世界入ってんなよなまえ」

「あたたたた!!いたよベル!」

「ベルフェゴール。なまえに乱暴する気なら容赦しませんよ」

「は?どこが乱暴?こんなのスキンシップ以外の何物でもなくね?な。なまえ。ちょっと痛いくらいがいいって言ってたもんな」

「うん、言ってないね!あいたいいたい!」

「む、骸」
不穏な気配を感じ取ったのか、ツナ君が慌てて話を戻した。

「さっき、マーモンは呼び戻す必要ないって言ってたけど……」

「術士の痕跡を辿ることが出来るのは術士だけ。なまえの家には僕が行きます」

むくろ君が言い切ったところでチャイムが鳴った。
術士とは何のことなのか、正直あまり分かっていないけど、彼が協力してくれることはなんとなく察せた。

「あの、むくろ君………ありがとう」


十数年ぶりの再会がこんな形で果たされてしまったのは少しだけ悲しい。でも、

「今度、ごはんにいこう!」

「、ごはん?」

「そう!むくろ君の好きなもの食べに行くの。わたし、お礼にご馳走する。そしたらそこで……お話、ししよう?」

むくろ君の目がぱちぱちと瞬く。
私は笑った。

「私とむくろ君の、今までの話」

だって、知りたいと思うから。


「……ふふ、君も、変わりませんね」

むくろ君は口許をほころばせて頷いてくれた。「そのかわり、料理はなまえの手料理で」と注文を口にした彼は、いつの間にか先生の姿に戻ってしまっている。


「では、なまえ。放課後にまた会いましょう」

「うん。またあとでね」

「………おや、忘れるところでした」

ちゅ、


「“さよならのチュー”でしたね。なまえ」


ベルのナイフに追いかけられながら屋上を後にしたむくろ君は、あの頃と同じ、いたずらな笑みをしていた。

(ぜってー殺す。つーかチクる。ボスにチクる)
(あ、ベルかつら落ちてるよ、あひたたたっ)
(お前が呑気だからいけねんだよ!ボケ)(えええ!!何でそんなに怒るの!?)

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