「暖かい飲みものでも出そうか」

「大丈夫だよ。ツナ君達も起こしちゃって…ごめんね」

「おれたちは、」

「はは…私も、ちょっと疲れちゃった」

「……分かった。父さんの部屋、こっちだから」

「ありがとう」

武君達におやすみを言って、ツナ君の後ろに続く。

(困ったなぁ。)

まだ、震えが止まらないや


ツナ君に連れられた部屋は綺麗に片付いた温かい雰囲気の部屋だった。私の部屋でしたように、ベッドの横にもう一式布団が敷かれている。
オレンジ色の電球にほっと心が落ち着く。
「ドア開けとこうか?」
眉を下げてそう聞きつのるツナ君。(ずいぶん、心配させてしまったみたい。)
私は微笑んで首を振った。

「大丈夫。電気は小さいのだけつけておいてもいい?」

「もちろん」

「ありがとうね、ツナ君」

「うん。……なまえ」

「?」

何かを言いかけたツナ君は、しかし口を閉ざして微笑んだ。

「…何でもないんだ。」

「そっか。」

「おやすみ」

「うん…おやすみ、ツナ君」

ツナ君が部屋を出て行って、私は布団にもぐりこんできつく目を閉じた。
「……、」




――目が覚めた時、胸の上に広がる赤いものを確認した時、これまでにないくらい死を近くに感じた。
――ザンザスさんがその液体を直ぐに落とそうと目の色を変えたのは、それが得体の知れないものだったからだ。そう気付いた時、「死」は私の中でよりリアルなものになった。

怖かった。


「……っ」

カチャ

控えめにドアノブが回り、咄嗟に体を起こした私の目に飛び込んできたのはザンザスさんだった。
「…ザンザスさん」

隣にツナ君がいたのだろう。ザンザスさんは横を向いて彼と二、三言交わすと、部屋の中に入ってきた。
「お前の服にかけられてたのはただのインクだ」

「インク…」

「だが、明日からはボンゴレの手配したホテルに泊まれ。暫くあの家には戻れねぇ」

「…はい」

それだけ言うと、ザンザスさんは布団の上に横たわった。
私は腕を伸ばして、枕元の小さな電球を落とす。

月明かりが漏れこんでくる所為で室内は完璧な暗闇にはならず、わたしは小さく息を吐いた。


「…」

ベルやスクアーロさんはどうしただろう。家の中には誰かがいたのかな。何かがいたのかな。(…馬鹿だな、私)
ザンザスさんが傍にいたからって無防備に寝ていたのがいけなかったんだ。
1回目は写真。
2回目はインク。
どちらも無害なイタズラといえばそうだろうけど、ザンザスさん達はそうは思っていない。なんで?――それくらい私にだってわかる。

 今日は『殺されなかった』のだ。

運が良かったわけじゃない。姿の見えない誰かの意志で殺されなかった。
だからザンザスさんは凄く怒っていたし、ベル達も殺気立っていたのだろう。

「…」

(今日は殺されなかった)
じゃあ
明日は?

明後日は?


「………オイ」

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