天井に穴を開けてやってきたその人は、拳銃を向けたまま私を見下ろした。聞こえねぇのかと言われた私だったが、あんまりの怖さに言葉など出てこない。ちびってしまいそうだ。
男の人は、端正な顔を苛立たしげに歪ませてみせる。
何故だかとても怒っていらっしゃるようだった。本来なら家を壊されて怒るのは私の方だったけど、顔に沢山痣をこさえたこんなヤクザみたいな人に文句を言えるほど度胸があるわけでもなかったので大人しくビビっていた。「チッ」し、舌打ちまでされてしまった。


「次が最後だ。吐かねぇなら、消す」

「、っ」

「沢田綱吉はどこだ」

「さ…さわだ、くん…は」

沢田君の家なら隣です!と言いかけたが、死期が間近に迫っている私のテンパった頭の中でふとよぎる彼の言葉。苦笑した顔。少し頼りなさそうだけど、とても優しそうな声。

この人はもしかしたら沢田君を殺しに来たのかもしれない。
だったら私、言っちゃだめなんじゃないかな。


(なんて、死にそうなのは私なんだっけ)

体が震える。開きかけた口をきゅっと引き結ぶと男の人の顔がますます険しくなった。今にでも引き金にかかった指が動きそうで、その瞬間に銃弾は私の頭を貫通して私はばったりと死んでしまうんだろう。それって痛いのかな。痛いのは、いやだなぁ。
じわじわと瞳に熱い膜がかかる。――泣いちゃう。そう思った瞬間、瞬きと同時に瞳から小粒の涙が頬を転がった。男の人が細い目を僅かに見開いた。そして突然口元を歪ませる。



「―――ハッ、お前か」

「?」

「……悪くねえ」

その男の人の言った事は意味が分からなかった。すっと離された銃口を視界に入れた時、私の体中からは汗がどっと噴き出した。ころされなかった。…しかし、安堵していられたのもつかの間だ。
突然胸倉を掴まれた後思ったら、目の前で両膝をついたその男の人のえらく加虐的な笑みが目に入り、そして見えなくなった。0距離で感じるのは啄まれた唇の感触だけ。何がどうなってこうなったのか、私には意味が分からなかった。

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