仕方ない。私は私の限界に挑戦しよう、とソファの方へ赴いた。
ベルはどこから引っ張り出してきたのか(あ、私の机からか。)DSを手にやわらかあたま塾に興じている。覗いてみるとピカソ頭だった。
「なーなまえ」
「何?」
「マシンガンで人殺したり街ぶっ壊したりするゲームねーの?」
「ないよ!」
「じゃあパーティ組んでモンスター倒すやつは?」
「それもないよ…」
「つまんねー。王子寝よ」
「え、え…え!?寝るの!?」
「は。何?遊んでほしーの?」
「遠慮します」
「ちぇ。ま、俺明日早ェし」
私は、伸びをしながらリビングの扉に向かって行くベルの背中を目で追った。

「…朝のランニング?」
「ちげーよハゲ」
「(はげ!)」
「しっししし…任務だっつの。相当しょぼいやつだけどな」
「そっか…」

スクアーロさんは暇になる事を見越して、溜まりに溜まった書類仕事をこちらへ持って来たと言うし、きっとベルもお仕事を用意していたのだろう。


「気をつけてね」

特に考えもなくそう口にすれば、ベルは一瞬ぽかんと動きを止めた。
(あれ…何か変な事言ったかな)
数秒後。いつもの笑みを浮かべてこちらに戻ってきたベルは、私の頭を二、三度撫でた。


「心配すんなよ。こんなB級任務で死んだりしねーから」
「…そうなの?」
基準なんて分かんないよ。
だけど、そんな私をよそに、ベルは自信満々に言い放つ。

「うん。だって俺王子だもん」





ベルは夜明け前に家を出るらしい。
私は大き目のおにぎりを二つ作ってラップにつつみ、テーブルの上に置いておいた。もしお腹を空かせたベルがここへ来たら、気付いて食べられるように。

それからスクアーロさんのコーヒーにお代わりを継ぎ足して、ソファでうたた寝をしていたザンザスさんの隣に座れば、私もやっぱり眠くなって目を閉じた。
今日もまたとんでもない一日だったから、またとんでもない夢を見るかもしれない。

早くこんな怖い日々が終わればいいと、強く願った。
終わりなんて来るのかな、とまた少し怖くも思った。

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