「…14?」

「11」

「…」

「…」

「……3!」

「ちげーよ、ここが14。ししっお前バカだろ」

ベルは頭が良かった。

「…」
私はテーブルに乗せられた数学のプリントを前に酷く項垂れた。私が長々しく数式を連ねている間になんと彼は暗算で全て解き切ってしまったのだ。

「ベルって学校行ってなかったんじゃ」

「あ?行ってねーけど」

「…(解せん。)」

「うっししし!この程度は知識とキョーヨー、だろ?しし、ししし!バカなまえ。バカ」

ベルに罵られながら宿題を書き進めていれば、私のベッドでごろつき始めていたベルが思いたったように立ち上がってこちらに寄ってきた。

「そうだなまえ。」

「はい?」

「お前ちょっと泣いてみ」

「………んん!?」

聞き間違えかな。

「いいから泣けって。」

聞き間違えじゃなかった。

「え…!?」

「ちょっとでいーからさ」

「え、ちょ…何で!?」

「王子ヒマすぎて死にそ」

「そんな理由!?だ、だめだよ!私が泣いたらどうなるかベル知ってるよね??」

「大丈夫だって。ボスいねんだし」

「そういう問題!?」

何が嬉しくて自らを危険に晒さなきゃいけないんだ。あぶない!ベルとか一番……ザンザスさんの次くらいに危ない!

「ラクリマ・マレディツィオーネ?大丈夫だって。俺そーいうの慣れてっから。何もしねーよ」

「ウソじゃん!チューされたもの!」

私が盛大に転び、膝から血をだっくだっく流すその傍で、傷口をこすられたあの記憶は思い出すだけで涙目になれる。あの時はベルにかすめるように唇を奪われたわけだけど、それよりちょっと前に私のファーストキスは盛大に奪い去られているので、その件に関してはうやむやになっていた。


「うしし…!あんなんキスって言わねーから」

「とにかくダメ。ザンザスさんに怒られちゃう」

「…フーン。王子の命令逆らうとか」

「げ!」

「悪い子なまえにはお仕置き必要だな。しっししし」

ナイフをずらぁっと宙に浮かせたベル。私は椅子から転げ落ちて、両手でタイムを示した。しかし自称王子様は素知らぬふうに口元を歪める。

「ちょ、べ、べる…たったんま!」

「なまえ、王子が日本史教えてやるよ」

「に、にほんし…!?」

「そ。」

ドアに背中を張り付けてベルを見上げた私。
ベルは暗殺者らしい残虐な笑みを口元に浮かべ、私を見下ろした。

「泣かぬなら、泣かせてやろう、ホトトギス」

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