「まだか?」
「ま、まだです」



「…まだかぁ??」
「まだです、すいません」



「…」

「…」



「う゛お゛おぉ゛い!!!」

脱衣場から響く濁音に、私はひっと肩をすくめた。そして今まで以上のスピードで頭を洗う。

「す、スクアーロさん!ゆっくり入れぇって言ったじゃないですかー!」
アクリルの扉の向こう側に寄り掛かって座るスクアーロさんに抗議してみる。

「忘れたぜぇ!」

「そんなあほな」

「俺はなぁ!こう見えて気の長ぇ方じゃねえんだぁ!!」

「見たまんまです!」

「女の風呂なんか付き合ってられっかぁ」

「じゃあリビング戻っててくださっても」

「XANXUSに殺されんだろぉがぁ!!」

「ひーん!あ、目!目にあわが!」



ご覧のように、スクアーロさんは私のお風呂に付き合ってくれている。不満たらたら、というよりドバー!だ。不満ドバー!
「も、もう出ますから!」
それでもベルやザンザスさんにお願いするよりずっといい。
ベルは悪戯で覗いてきたりナイフ投げてきたりしそうで怖いし、ザンザスさんだと無言の威圧感が息苦しい。スクアーロさんに急きたてながら入る方がどちらよりも安心なのが本音だ。

ということで。

「風呂場の見張りは誰がいい」とザンザスさんに聞かれ、聞いたくせに「俺を指名したらカッ消すぞドカス」オーラを振りまくザンザスさんと、ニヤニヤしているベルを視野に入れた瞬間、私の心は決まった。
―――「ス、スクアーロさんで」





「スクアーロさん達の学生時代って、どんなでしたか?」

彼の気を少しでも和らげようと、ほのぼのしていたはずの少年時代について尋ねてみた。
スクアーロさんは文句を連ねていた口をぴたりと閉ざし、思い出すように話し始めた。

「普通に学校行ってたぜぇ」

「へえ…」

皆マフィアになる前は普通の学生だったんだ、と妙な感心をしたところで爆弾投下。

「あの頃からだなぁ…俺が剣帝を目指し始めたのは」

「へえ……え。」

「最恐と名のつく奴らを片っ端から斬っては捨て斬っては捨て」

「…」

「ひたすら剣技を磨いたぜぇ」

きっと遠い目をしているんだろうな。
スクアーロさん、普通の学生じゃなかったみたい。

「ザ、ザンザスさんは?」

「あいつもマフィア学校じゃ浮いてたぜ」

「マフィア学校…」

「ほとんど来てなかったがなぁ」

「へえ。…じゃあベル」

「あいつはガキの頃からずっとヴァリアーにいたから学校は行ってねぇ」

スクアーロさんの声が落ち着いてきたので、私はついでに、と湯船につかった。
急かされるのは困るけど、彼がそこにいることについては本当に有難い。煩い声のおかげで不安は飛ばされてしまったようだ。


「ヴァリアーにはもっとたくさん仲間がいるんですか?」

「大勢いるぜぇ。幹部は俺らも入れりゃ六人だ」

「え!!?少ないんですね」

「こんなもんだろぉ」

「へえー…どんな人達ですか?」

「口じゃ説明しがてぇが…常人じゃねェのは確かだぁ!」

「…」
ヴァリアーってどんな組織なんだろう。

「………っつーかテメェいい加減遅ぇぞぉ!!さては湯浸かってんなぁ!!?」

「ギ、ギクー!」

「さっさと出ねぇと卸すぞぉ!!」

「は、はいいいい」勢いよく湯船から上がりタイルの床に足を乗せた時、つるっと滑った。そりゃもう見事に、
――ドォン!
「いったーっっ」
「う゛お゛お゛ぉぉい!!!何事だぁ!!?」

――ガララッ

「…」

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