「じゃあ、俺達はそろそろ帰るぞ」
「ごちそうさま」
「美味かったぜ!なまえ」
「……まあ、コンビニの飯よりはな」

食後の一休みも終え、腰を上げたツナ君達。

「ガキはとっととお寝んねしやがれ」
「しししっ!あ、今日のお礼はスシでいーぜ」
「刀小僧!鍛錬怠んじゃねーぞぉ!!」

ザンザスさん達はこんな感じでのお見送りだ。額に青筋を浮かべている隼人君をまあまあ、と宥めながら玄関に誘導する武君。扱いなれてるなあ、なんて思いながら私も玄関に向かった。






「XANXUS…」

「…さっさと失せろ」

「うん。…あのさ」ツナはドアの取っ手に触れながら、視線を落とした。思い返すのは学校での事件発覚からさっきまでの出来事。
「なまえ、泣いてないんだ」


写真を見せた時、一瞬で青ざめたなまえ。
しかし、チャイムと同時にそれを元の茶封筒に押し込み、しっかりと俺の手に握らせた。
持ち上がった顔は、明らかに見せかけのひきつった笑顔。

「だいじょうぶ!」

全然大丈夫じゃなさそうな顔をして

「しんじてます!」

そして何もかも託したような、それでいてどこか芯の強さも感じる声で、なまえは言った。



「わたしを、よろしくお願いします」







「だから、」

だから…、何と言おうか。


ツナの知るヴァリアーという組織は、乱暴で凶暴で、無法で横暴だ。故に、XANXUS達に警備の仕事は向いていないと思っていた。(彼らも自分でそう言っていたし。)
「…ドカス!」

だが、今回の件に関してツナの心配は杞憂に終わりそうだ。


「ヴァリアーは成功率90%を下回るヤマには手を出さねえ。」

XANXUSのグラスで、カランと氷が揺れた。
「………解れ、ドカス」

ツナはしばらく考えて、やがて眉を下げて笑った。


「なまえをよろしくね、XANXUS」


XANXUSはツナと目を合わせることもしなかったが、ツナはそれでも十分だった。
リビングを出て、すっかり待ちくたびれている彼らに慌てて詫びを入れた。
「この俺を待たせるなんて1兆億年早ぇぞ、ツナ」
「いってぇー!!」
リボーンには脛を蹴られたけど、なまえの顔が学校にいる時よりずっとやわらいでいて安心したのは嘘じゃない。


「それじゃあ、なまえ、本当にごちそうさま」
「あ、外まで送るよ」
「バカかテメェ!危ねェだろ!」
「でも…」
「気にすんな。どうせ家隣だしな。」
「今日はオレと獄寺、ツナんちに泊まるんだぜ!」
「え!そうだったの?」
「うん。だから、何かあったらすぐ助けに行くよ」
「…ツナ君」

何て頼り甲斐があるんだろう。私は感動しつつ、お母さんが「いざとなったらお隣を頼れ」と言っていた理由を察した。

「…おら」

「え?あの、隼人君…これ」

「アドレス。……俺だけ教えてなかったからな」

ぶっきらぼうに渡された紙をじっと見つめる。並ぶアルファベットと11桁の数字に、じわりと涙が滲む。こらえろ…!わたし!さっきできたじゃないか!

「テメ!何泣きそうになってんだ!!」
「だって感動で…」
「ざけんな笑え!!」
「うぎゅうう…いひゃいよ、ひゃやひょふーん」

「獄寺の奴照れてやがんな」
「え!そうなの!?じゃあアレ…照れ隠し!?」
「ハハ、素直じゃねーよな!」

私の頬を千切れんばかりの力でつねった隼人君は、あばよ!と言ってずんずん玄関を出て行ってしまった。

「あー、行っちゃった…。それじゃあなまえ、おやすみ」
「また明日な!」
「オレ達が出たらすぐ鍵閉めるんだぞ?いーな?」

「うん!…今日はありがとうね。おやすみなさい!」



ガチャン。扉が閉まって、私はリボーン君に言われた通り上から順番に3つ鍵を閉めた。用心深くチェーンもかける。

「…よし、これで大丈夫」

私はぼうっと玄関の扉を見つめた。

「…」

カギ、増えたな。

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